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魔法少女は契約精霊のことが嫌い  作者: 道上 萌叶
第1章 魔法少女ルシア
23/27

差し込む光 1

 ふんわり空中に浮かぶ体が、ゆっくり降下する。

 地面との距離が近くなり、エリンの背中から生える白い羽が光となって消えて、エナガの姿をしたアラベラがエリンの肩にとまる。

 地面に足をつけたエリンは、ネビュラ住宅街の北側に目を向ける。


「もー、来るの遅いよー」


 エリンの目線の先、北の空にルシアが目を向けると、魔術師協会の魔術師がこちらに向かって来ていた。


「ルシアちゃん達がいなかったら、この街滅んでたよ!」


「エリンちゃん、縁起でもないこと、言わないの」


 溢れてしまったエリンの言葉と、エリンの肩を宥めるアラベラの言葉は、ルシアの心に突き立つ刃となる。

 エリンとアラベラは知らない。ルシアが害獣を呼び寄せてしまったことを。

 2人だけではない。ロレンツォだって、原因がルシアにあることを知らない。


「エリンさん! すまない、助かった」


 直接ロレンツォの声が耳に届き、ルシアは我に返った。


「……エリンさん、おろしてください」


 エリンの魔力に殴り飛ばされ、地面に叩きつけられたペラタチスは、今、毛繕いをしている。まだルシア達に向かってくる気配はない。

 けれど、ここはまだ戦場だ。いつペラタチスが動き出すか、ルシア達に襲いかかってくるかわからない。気を抜くことはできない。


「えー……まぁ、しゃーない。ルシアちゃんに嫌われたくはないからなぁ」


 何故か名残惜しそうなエリンにおろされ、ルシアは改めて周りを見渡す。

 漸く到着した魔術師が、大通りの人々を避難させ、魔法壁を張っていた。


「戦闘範囲を大通りに限定したか。賢明な判断だ」


 ロレンツォの言葉に、ルシアは頷く。

 戦闘範囲を大通りに限定することで、避難させるのは大通りに出て来ている人だけで済む。

 ペラタチスは今毛繕いに夢中だが、建物内の人々も外に出して避難させるのはリスクが高い。それなら、()()()()守ってしまえばいい。


「そっかー。壁より内側に魔法壁を張っちゃえばいいもんね」


 納得した! と両手を合わせたエリンが、左手の薬指にはめている指輪に右手をかざし、魔力を斧の形にする。

 一般人が魔法壁を通り抜けられらないように、害獣も魔法壁を通り抜けることができない。通り抜けることができるのは、戦闘状態の魔法少女と契約精霊だけだ。


「みんな、お喋りはここまでよ。ペラタチスが動き出したわ」


 アラベラの言葉に、3人は同時にペラタチスへと目を向ける。

 毛繕いを終え、鼻をヒクヒクさせて辺りを見回していたペラタチスが、ルシア達の方を向いた。


「ルシアちゃん、来るよ!」


「……分かってます」


 ロレンツォが街灯の上に行き、アラベラはエリンの上を飛ぶ。

 斧を構えるエリンを横目に、ルシアは魔力をレイピアの形に変え、はたと思い至ったことがあり、狙撃銃の形に変更し直す。


「エリンさん」


「お? どした……」


「!」


 エリンがルシアへと顔を向けた直後、ペラタチスが一瞬でエリンの前に移動して、エリンに向かって前足を振りかぶった。

 ペラタチスの前足が振り下ろされる前に、ルシアはエリンとペラタチスの間に割り込み、狙撃銃でペラタチスの鋭い爪を受け止める。


「おお! ルシアちゃん、ありが、とう!」


 ルシアの背後のエリンが驚きを含んだ声を上げた後、エリンがルシアを飛び越え、ペラタチスの額に斧を振り下ろす。

 だが、危機察知能力に長けたペラタチスは、エリンの攻撃などどうということもなく躱す。

 エリンの攻撃を躱して後ろに飛び退いたペラタチスは、エリンの斧が地面に叩きつけたと同時に、再びエリンに襲いかかる。


「! エリ……」


「っ!」


 けれど、戦闘に集中したエリンは、ペラタチスの動きに素早く反応した。


「ふ、ふっふー。そう簡単にやられるわけないでしょー」


 ペラタチスの前足を受け止めたエリンは、ペラタチスを振り切って攻め出した。

 ペラタチスの鋭い爪とエリンの斧がぶつかり合う音が大通りに響く。

 一見エリンとペラタチスの戦いは拮抗しているように見えるが、ペラタチスは動きに余裕がある。反面、エリンはギリギリのところでペラタチスの攻撃を躱して、ギリギリの隙をついて攻撃を仕掛けている。

 エリンと対峙しているペラタチスの隙をついて、ルシアは狙撃銃の引き金を引くが、それすら難なく躱されてしまう。


「おっ、と!」


 エリンに隙が生まれ始めた。

 目敏く気付いたペラタチスは、その隙を狙ってエリンに攻撃を仕掛け出した。

 ルシアはエリンが攻撃を仕掛けている間にペラタチスの魔石を狙い、ペラタチスがエリンを攻撃しようとした時はエリンが攻撃を躱す援助をする。それでも、タイミングが少しでも遅れると意味がない。

 今のは、かなりギリギリだった。


「〜っ!」


「ルシアちゃん!」


 やはりこの状態でルシアが思いついたことをするのは、あまりにもエリンに負担がかかりすぎる。

 何か、他の方法を考えなければと、思考を巡らすルシアを、エリンが呼んだ。


「さっき、なに、言いかけた?!」


「……なんでも、ないで……」


「ルシアちゃん! あたしなら、だいじょぶ、だよ!」


 だけど、エリンはルシアの言葉を遮り、ルシアが考えたことに返事をしてきた。

 こうして話している間も、お互いペラタチスから目を背けることはない。

 ルシアとエリンは、2人がかりでペラタチスと対峙している。にもかかわらず、まだペラタチスに致命傷を負わせるどころか、傷ひとつつけることもできていない。


「ルシアちゃん!」


 エリンの息が上がり、戦闘開始時よりも動きが鈍くなってきた。


「遠慮、しなくて、いいよ!」


 エリンが大きく斧を振りかぶり、ペラタチスに叩きつける。それも容易く躱したペラタチスは、エリンに向かって尾を振った。


「い、っっ!」


「っ!」


 すぐにルシアはペラタチスのお尻と尾の先端に向けて、連続で魔力を打ちつけたが、ギリギリ間に合わなかった。ペラタチスの尾の先端が、エリンの左腕を抉った。

 抉られたエリンの左腕を、淡い光が包み込んで回復していく。その隙を狙うペラタチスに、ルシアは魔力を打ち付けて警戒する。時々額の魔石を狙うが、掠ることもできない。

 そうこうしているうちに、エリンの左腕は癒され、癒えたばかりの左手を確認する間もなく、エリンはペラタチスに向かっていく。

 迷っていても、エリンにかかる負担が増える一方だ。

 このまま戦いながら考えていても、良い案が思いつくとは限らない。


「ルシアちゃん!」


 ペラタチスに向けているエリンの目は、「負けない」と叫んでいる。

 ルシアはエリンが苦手だが、こういう時は頼りになる。


「1分、いえ、30秒だけ、時間を稼いで貰えますか?」


 ここは、エリンを信じるしかない。

 エリンが体勢を崩した隙を狙ったペラタチスに、魔力を打ち付けて牽制してから、ルシアは言い切る。


「30秒以内に、ペラタチスを仕留めます」

次回は明日、9日の予定です。次回で1章が完結します。

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