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魔法少女は契約精霊のことが嫌い  作者: 道上 萌叶
第1章 魔法少女ルシア
21/27

悪夢 1

 しゃがみ込んだロレンツォは、乱雑に頭を掻きむしり、肺に溜まった空気を吐き出してから、ゆるゆると立ち上がる。

 このまま静かな空間で、時々聞こえるルシアの鼻を啜る音が聞こえてくるのは、ロレンツォには耐えられなかった。

 ロレンツォは7歳の頃、物心がついた時から暮らしていた孤児院で出会った女の子と約束を交わした。だが、その子と交わした約束は、その半分を叶えることができなくなった。約束を叶える前に、女の子は立ち去ってしまったから。

 女の子がいなくなったのは、ロレンツォがケンジー教授に引き取られて3ヶ月経った後だった。ロレンツォがケンジー教授に引き取られた3ヶ月後、孤児院に害獣が出現して、女の子を含む多くの人が亡くなった。

 ロレンツォがその事を知ったのは、孤児院が襲撃された1週間後のことだった。

 教授と共に再び孤児院に足を踏み入れたロレンツォは、そのあまりの変わりように言葉を失った。

 生き残った者もいたと聞いた。だが、その中に、ロレンツォの記憶にある黒い髪の女の子はいなかった。

 この時、ロレンツォは、生まれて初めて、世の中の残酷さを呪った。

 だが、残酷な世の中を呪いはしたが、打ちのめされることはなかった。女の子と交わした、もう半分の約束は守ろうと決意した。

 決意したロレンツォは、猛勉強して魔術師になり、契約精霊になる権利を得た。

 あとは理想の魔力を持つ者と契約を交わし、約束を果たすだけとなった。だが、それが1番難しかった。女の子との約束を果たすために、ロレンツォは理想像を高く持ちすぎていた。

 魔術師となって2年、ロレンツォは諦めかけていた。半年という期限を設けて、それでも理想の魔力を持つ者が見つけられなかったら諦めようと思っていた。約束を守ることはできそうにないが、契約精霊になることはできるから、もしかしたら約束を果たすこともできるかもしれないという僅かな可能性に縋って。

 だが、諦める前に、ロレンツォの前にルシアが現れた。ルシアの持つ魔力こそ、ロレンツォの理想、いや、それ以上だった。ルシアの魔力なら、あの子との約束を果たすことができるかもしれないと、ロレンツォは生まれて初めて気持ちが高揚した。

 ルシアがいなくなってしまったら、約束を果たすことができない。

 ロレンツォがルシアの願いを聞かないのは、女の子との約束を果たすためだ。ルシアと一緒にいるのも、約束のためだ。それだけのはずだった。

 なのに、最近は、これ以外の理由もできてきている。

 ルシアは、あの女の子に似ている。

 あの子のように、目を引くような黒髪ではなく、光に透ける灰色の髪なのに。

 あの子のように、常に何かに怯えているのではなく、死を望んでいるのに。

 ロレンツォの記憶にある女の子とはまったく違うのに、何故か似ていると感じる。

 ロレンツォはルシアにあの女の子を重ねて見ている。

 だからこそ、ルシアがロレンツォを無視すると、嫌な顔を向けると傷付く。

 それでも、まだ本気でロレンツォを拒絶したことはなかった。さっきまでは。

 机の上に置いたままになっていたルシアのキッシュに冷却魔術をかけて保管庫にしまう。

 キッチンやリビングの掃除をして、なるべく音を立てて気を紛らわせていたロレンツォは、ふと、外が騒がしいことに気付く。

 窓から外を見るが、何もわからない。

 ルシアではないが、玄関から出るのも面倒で、飛行魔術を展開して窓から出たところで、ロレンツォの耳に鋭い悲鳴が届いた。

 慌てて悲鳴の出所に向かうと、そこには1匹の大鼠がいた。


「あれは‥‥‥!」


 害獣、ペラタチスだ。

 長い尾を振り回し、鋭い歯で地面を、建物を齧っている。

 街を破壊していくペラタチスは、幸い人を襲った形跡はない。だが、それも時間の問題だ。

 ここは住宅街で、建物内には多くの人がいる。レベル10の害獣となると、建物内に逃げ込んでも意味がないから避難しなければならないが、避難誘導の魔術師は到着していない。

 そして、往来には、往来にも、ペラタチスから逃げる人々がいる。逃げる人の中に、ロレンツォはよく知る顔を見つけた。

 ロレンツォが耳のピアスに触れて猫の姿に変わったのと、ペラタチスの意識が、買い物かごを持って逃げる老婦人に向いた。慌てたあまり、老婦人の足がもつれた。


「っ!」


 間に合えと心の中で叫び、ロレンツォは防御結界を張る。


「っぶねぇーーー…………」


 ギリギリ、間に合った。

 だが、息を吐く暇はない。

 ペラタチスの意識は、未だ老婦人に向いたままだ。

 ペラタチスの攻撃でヒビの入った防御結界が割れる前に新たな防御結界を張りながら、ロレンツォはピアスに魔力を流す。


「ルシア!」


 ロレンツォは自室にいるだろうルシアに呼びかけて、十数分前にルシアに拒絶されたことが頭をよぎり、一瞬躊躇った。

 だが、害獣を放置することはできない。


「っすまない、今は顔を見たくないだろうが、そうも言ってられない! 緊急事態だ! 害獣が、出現した!」


 ロレンツォが叫んだ直後、防御結界が割れた。

次回は明日、7日の予定です。

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