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願い 1

 カーテンの隙間から差し込んだ朝日が顔を撫でて目が覚める。春の暖かい朝日が、夜の名残のある冷たい空気を優しく見下ろしていた。

 ベッドから降りて、伸びをする。肌シャツとパンツだけしか着ていない体に、部屋の冷たい空気が触れて鳥肌が立つ。暖房をつける代わりに指輪に触れて、たまっていた魔力を放出して部屋を暖める。

 クローゼットを開けて部屋着のワンピースに身を包んでから、また指輪に触れて魔力を操作して水を作る。桶にためた水で顔を洗うと、部屋のドアが開いて銀髪の男性が入ってきた。


「今日は早起きだね。朝ごはんができたよ。食べにおいで」


 彼は魔法少女である私の契約精霊、ロレンツォ。精霊というが人間である。

 この世には魔法少女と契約精霊、それから魔法少女の、人類の敵である害獣が存在する。

 魔法少女は契約精霊と共に害獣と戦うものの事。普通の人よりも魔力が多く、かつ勝手にたまっていってしまう体質のもの。契約精霊に選ばれ、契約を結ぶことで魔法少女になる。

 契約精霊とは、魔力を極めた一人前の魔術師のことで、魔法少女と契約を結ぶもの。戦闘中は何故か動物の姿になっている。自分の主人となる魔法少女は、契約精霊が自ら魔法少女に勧誘するらしい。そして魔法少女の願いを一つだけ叶える義務がある。私も彼と契約した時に一つだけ願いを叶えると聞き、それならばと魔法少女になったのだが、それは未だ叶えられていない。

 そして害獣は、この世に存在する災厄だ。彼らは人類最大の敵で、場合によっては自然界にも影響をもたらす存在だ。1から15までのレベルで分類され、数字が大きくなるとその被害も大きくなる。


「‥‥‥いらない」


「全く、いつも言っているだろう。朝ごはんは1日の始まりだ。食べなければ体がもたない」


 私を朝ごはんに誘いに来たらしいロレンツォから目を逸らして言うと、飽きれたような溜息をつかれた。


「いつも言っているけど、私は朝ごはんを食べないタイプなの。無理に入れても気持ちが悪くなるからいらない」


 今日はたまたま朝日によって起こされてしまったが、いつもならまだ寝ている時間だ。正直お腹もすいていないから食べたくない。


「だから食べれるものを食べれる量でいいと言っているだろう。用意した分すべてを食べろとは言っていない」


「だからそれも無理なんだって言っているじゃない」


 今日はまだ叩き起こされていないだけましだけれど、朝からいつもと同じやり取りに嫌気がさす。ロレンツォが私の事を心から思って言っていることも私にとっては不快でしかない。


「そんなことよりも、いつになったら私の願いを叶えてくれるの?魔法少女になってもうそろそろ3年近くなるのよ」


「だから、その願いは叶えられないと言っているだろう。他の願いを考えろと言っている」


「他の願いなんて、ないと言っているわ」


 私がロレンツォと出会って魔法少女になって、そろそろ3年目になる。それなのにロレンツォは「その願いは叶えられないから他の願いを考えろ」と言っている。彼と契約を結ぶ前にわかっていたら魔法少女になんてならなかったのに、それを知ったのが魔法少女になって初めての害獣と戦った後だった。正直今からでも過去に戻ってやり直したいけれど、過去に戻る魔法はないらしい。ほんと、嫌になる。


「何かないのか?お金持ちになりたいとか、有名になりたいとか。ルシアは本が好きだからもっと本が欲しいとか、図書館が欲しいとか」


「だから、ないと言っているでしょう。私の願いはずっと一つだけよ。本を読むから出て行って」


 今日もロレンツォは私の願いを叶えてくれない。そもそも私に朝ごはんを用意している時点で、私の本当の願いを聞くつもりがないことは分かっていた。


「ルシア‥‥‥」


「用意した朝ごはん、今日もお隣のおばあさんと食べて頂戴。昨日もあなたと朝ごはんが食べれてうれしいと言っていたわ」


 まだ何か言いたそうなロレンツォを部屋から追い出して、本棚から適当な1冊を取り出して部屋着のワンピースのままベッドに横になる。部屋の中に椅子はあるけれど、私はベッドで横になりながら本を読みたい。椅子はロレンツォが勝手にどこかで買ってきたものだ。

 適当に選んだ本だったけれど、その内容は魔法少女と契約精霊についてのものだった。

 至福の読書タイムまで仕事の頭になりたくないけれど、もう起き上がって別の本を取り出す気力はない。

 仕方がなく魔法少女と契約精霊の本に目を落としながら、ロレンツォと初めて出会ったときのことを思い出す。


 あの日はサクラの花がまだ3分ほどしか咲いていない、よく晴れた日だった。

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