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魔法少女は契約精霊のことが嫌い  作者: 道上 萌叶
第1章 魔法少女ルシア
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懺悔ではなく、

エピソードタイトルに納得できていないので、何れ変更するかもしれないです。

 墓石の汚れを軽く拭き取り、買ったばかりのユリの花を供える。

 桜が散り、葉桜の季節になって少しすると、ルシアは毎年ここ、両親の眠る墓地に来る。はっきりとした日付をルシアは知らないが、両親が害獣に襲われ、ルシアを守って命を失ったのは、桜が散った後だったと聞いている。

 ワンピースの裾が地面につかないように気を付けてしゃがみ、目を閉じずに手を合わせる。

 手を合わせてはいるが、神へ感謝することも、祈ることもしない。手を合わせてぼんやりと墓石を見つめ、この下に眠る人達と、この下以外にも眠っている人達、傷付けてしまった人達に懺悔する。

 いや、懺悔などではない。ルシアは自分の過ちを認めているが、許しを請うてはいないのだから。許しを請うというよりも、(むし)ろ、


「ルシアさん?」


 背後から聞こえてきた声に、振り向いたルシアは、驚きに目を瞠る。


「シス、ター……?」


 嘗てルシアがお世話になった人が、左手で杖をつき、右足をかばうように立っていた。


「お久しぶりですね。元気に、していましたか?」


 ルシアの記憶にあるまま、目の前の人は柔らかく微笑んだ。

 柔らかく微笑むシスターの、修道服の右側が、風に靡いて大きく揺れていた。




「…………遅い」


 リビングで腕を組み、時計と睨めっこしていたロレンツォは呟く。

 ルシアが出かけてから、1時間以上経つ。すぐに帰ると言っていたのに、ルシアは帰ってきていない。10分前にルシアの端末にメッセージを送ったが、既読もついていない。


「はあーーー…………仕方がない」


 大きく溜息を吐いたロレンツォは、指輪を起動させてルシアの居場所を探る。

 ルシアは嫌がるだろうが、ここまで遅いと心配になる。もしルシアがロレンツォに知られたく無さそうなところにいるのなら、ルシアの無事を確認して、帰ってきた後は知らなかったフリをすればいい。

 指輪を起動させたロレンツォは、普通の人には見えない魔力の繋がりを探る。


「ん? ここは……」


 探り当てた先は、ロレンツォがいるところ、この家からそう離れていない場所だった。いや、離れていないというより、これは、


 ガチャリ。


 玄関のドアが開く音がして、ロレンツォは慌てて指輪を解除する。


「ル、ルシア、おかえり!」


 そしていつも通り本を読んでいましたというように、机の本を開き、リビングに入ってきたルシアを出迎える。


「…………」


 だが、ルシアは、必死で取り繕うロレンツォに気付いていないようだった。


「ルシア?」


 それだけではない。ルシアには、ロレンツォの声が届いていないようだった。

 顔を下に向けて俯くルシアは、そのままリビングを通り抜け、ロレンツォの前を横切る。


「ルシア、ご飯は?」


 帰ってきてから食べると言っていたのに、ルシアは手を洗いに向かったのではなく、自室に向かっていった。


「…………」


 不思議に思って問いかけるが、やはりルシアにはロレンツォの声が届いていない様子で、そのままドアを開けると部屋に入って行こうとする。


「ルシア!」


 いつもと違う。いつものように、ロレンツォを鬱陶しく思って無視しようとする様子ではない。

 このまま部屋に向かわせてはいけないとロレンツォの直感が叫び、ルシアの、ドアにかけていない反対の手を取り、ロレンツォはルシアを引き止める。


「ロ……レン、ツォ……?」


 漸く上げられたルシアの顔は、硬く強張り、酷く青白く見えた。いや、実際、初めて見るほど、ルシアの顔からは血の気が引いて青白くなっていた。


「ルシア、何があった?」


 外出先で、何かがあったに違いない。

 ルシアは死にたがっているが、自分で命を絶つような勇気はない。時々本気で死のうとすることがあるが、ロレンツォにはそれが本気のようには見えない。死のうとすることを止めてほしそうに見える。

 だが、今のルシアは、家を出る前にロレンツォを脅したように、少しでも何かを間違えると自ら命を絶ちそうな危うさがある。この手を離してしまったら、ルシアはここからいなくなる。そんな予感がした。


「…………何も、ない……」


 眉を寄せて問いかけるロレンツォから目を逸らしたルシアは、やはり真実を語らない。


「ルシア、話せる範囲でいいから……」


「何でも、ないって」


「だが、」


「いいから!」


「ルシ‥‥‥」


 手をほどかれたロレンツォは、それでもルシアに問いかけようとして、息を吞む。


「今は、ほっといてよ」


 初めて、ルシアから本気の拒絶を受けたロレンツォは、ルシアが部屋に入っていくことを止められなかった。

 勢いよくドアが閉まった直度、ガチャッと中から音が聞こえる。

 鍵を閉められた、と気付いたのは、時計の秒針が1周回って戻ってきた時だった。

 

「……クソッ!」


 誰に聞かせるでもない、自身の過ちを悔やむように悪態をついたロレンツォは、握りしめた拳を壁に打ち付ける。

 鈍い音がリビングを震わせ、やがて静寂に包まれる。

 静かな空気に身を任せてその場にしゃがみ込んだロレンツォは、部屋の中から微かに鼻をすする音が聞こえ、再び小さく悪態をつく。


 苦しげに歪められたルシアの目には、涙が、溜まっていた。

次回は明日、4日の予定です。

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