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魔法少女は契約精霊のことが嫌い  作者: 道上 萌叶
第1章 魔法少女ルシア
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幼い頃の記憶 1

 部屋に充満する濃厚なミルクの香り。

 湯気の立ち上るキッシュにナイフを入れ、6等分にする。4切れはラップをして冷却魔術をかけて保管庫にしまい、2切れはそれぞれ皿に盛る。

 優しくて甘い香りのスイートコーンのポタージュは木の器によそぐ。


「さてと。ルシア、お昼ご飯にするよ」


 カトラリーも用意し、あとは食べるだけとなったところで、部屋にいるルシアに声をかける。

 最近はパジャマを着て寝るようになったが、それでもお昼近くまで寝ているのは変わらない。今日もいつものように起こしたが、朝食はいらないと言って起きてこなかった。


「あれ、どこかへ出かけるのか?」


 きっとまだ寝ているだろうと思い、昼食の支度を終えたロレンツォはルシアを起こそうと部屋のドアを開けた。だが、珍しく起きて着替えまで済ませていたルシアは、チラリとロレンツォに視線を向け、どうでもいいことのようにすぐに逸らした。


「……少しね」


「珍しいな。今日は黒いワンピースか」


 ルシアは普段、白いワンピースを着ることが多い。白が好きだからではなく、考えるのが面倒だから白いワンピースばかり着ているらしい。

 だが、今日は珍しく黒いワンピースを着ていた。襟だけは白く、青いリボンが付いたシンプルなデザインだ。


「お昼はどうする?」


「……すぐ帰るから、先食べてて」


「それなら保温魔法をかけておくか。すぐに出かける準備をするから、待ってて」


 契約精霊と魔法少女はあまり長い時間離れていない方がいい。害獣が出現した時に駆けつけるのが遅くなるから。

 そうでなくても、ルシアはロレンツォを置いて行こうとする。一緒にいないと、ロレンツォは害獣が出現したことに気付くことができない。まあ、いざと言う時は魔法少女と契約精霊を繋ぐ指輪でルシアの居場所を調べればいいのだが。


「……ついてこなくていい。本当に、すぐ帰る」


 予想通り、ルシアはロレンツォを拒んだ。

 ルシアはロレンツォのことをよく思っていないことを、ロレンツォはよく理解している。理由も、ちゃんとわかっている。ルシアはロレンツォの望み通り魔法少女になったが、ロレンツォはルシアの願いを叶えられないから。


「そういうわけにもいかないだろう」


 ここまではロレンツォの想定内だ。

 ルシアは害獣討伐以外では、滅多に自宅から足を踏み出さない。それでも外出することは月に何度かある。

 ルシアはそのたびに「ついてこなくていい」と言う。だが、ロレンツォがついていくことに嫌な顔をしながらも、無理に拒むことはない。ほとんどは。

 だけど、今日は違った。


「やめて。来ないで。すぐに帰るから、絶対についてこないで。ついてきたら、あんたが私の願いを叶えなくても、私自らの手で願いを叶える」


「あ、おい!」


 脅すように言ったルシアは、ロレンツォをすり抜けて部屋から出ると、足早に玄関に向かっていった。

 出かける準備などしていないロレンツォは、端末と財布を取ると、慌ててルシアを追いかける。ルシアは玄関のドアノブに手をかけていた。


「まあ、私が死んでも、あんたは心の底から困ったりなんてしないだろうから、ついてきたいのならどうぞお好きに」


 ロレンツォが追いかけてくることを想像していたように振り返ったルシアは、少し自嘲気味に笑い、そして自分で言った言葉に傷ついたように俯くと、立ち尽くすロレンツォに目を向けることなく出て行ってしまった。

 残されたロレンツォは、ルシアを追いかけることができずにその場にしゃがみ込む。


「はぁー‥‥‥」


 悪態をつきたい気持ちを堪えて、肺の空気をすべて吐き出す。

 ルシアのあの顔は、本気だ。ロレンツォが少しでもルシアの後を追いかけたら自殺すると宣言していた。脅しではなく、本気で死ぬと言っていた。

 滅多に外出することのないルシアだが、月に数回は害獣の討伐以外にも外出することがある。そのほとんどは、というか、ロレンツォがついて行く時はいつも古本屋か図書館に行っている。

 だけど、時々例外がある。明らかに古本屋や図書館意外の場所に出かけていることが、年に2、3回ある。

 だけど、ロレンツォはルシアがどこに行っているのか知らない。

 今日のようについて行こうとすると拒絶される。そしてついて行くことはおろか、どこに行っているのか聞くこともできない。

 ルシアとロレンツォが出会って3年経つ。だが、ロレンツォはルシアのことをよく知らない。知っていることよりも、知らないことの方が多い。

 ロレンツォがルシアに聞かないわけではない。ルシアがロレンツォに話したがらないのだ。

 ルシア自身のことを知りたいと、どれだけロレンツォが問いかけても、ルシアは何も話さない。あまりしつこく聞こうとすると、ルシアは自室にこもって頭から布団をかぶってロレンツォを拒絶する。

 そうと分かっているから、ロレンツォは無理に聞くことができない。

 もしも無理に聞き出したら、ロレンツォが止める暇もなく、ルシアはロレンツォの許から立ち去るだろう。ロレンツォはルシアの手を引きとめることもできないだろう。3年経つ今でも、ロレンツォはルシアの心に触れることができないから。

 だけど、それだけは何としても回避したい。

 何故かルシアは、ルシアが死んでもロレンツォが本当の意味で困ることはないと思っている。そんなことはないのに。ロレンツォはルシアが死んだら困る。ルシアだけが、ロレンツォの希望だから。

 ロレンツォの望みを、幼い時のあの子との約束を叶えることができるかもしれないのは、ロレンツォが知る中ではルシアしかいないから。

次回は明日、2日の予定です。

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