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魔法少女は契約精霊のことが嫌い  作者: 道上 萌叶
第1章 魔法少女ルシア
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研修 7

今回は戦闘シーンもないほのぼの番外編のようなストーリーです。

「……ア……ルシア、起きて」


「ん、ぅ……」


 いつものようにロレンツォに起こされて、魔法少女専用端末を軽くタップしてホーム画面を開き、現在時刻を確認する。

 そして、やはりまだ寝ていられると布団を頭まで被る。


「こら、寝るんじゃない」


 が、普段は「朝ごはんを食べないと」とか「いつまでも寝ていない」とうるさいだけで、結局寝かしておいてくれるロレンツォが、今日はうるさいだけではなかった。


「んー……」


 ロレンツォは容赦なく布団を剥ぎ取ってきた。

 窓から差し込む朝日が眩しい。目を細めながら、ロレンツォが奪っていった布団に手を伸ばすが、ギリギリのところで届かない。


「かえして……」


 なるべくきつい目でロレンツォを睨むが、呆れたと言いたげな顔をしただけで布団は返ってこない。

 布団がなくても、不思議と部屋の中は暖かい。


「こら」


 寒くないから布団がなくてもいいかと、再び眠りにつこうとしたところで、おでこに軽い衝撃が加わった。


「んぅ……いたぁ……」


デコピンをしてきたロレンツォを睨みつけると、ロレンツォは剥ぎ取った布団を抱ながら大きな溜息をついた。


「まさか、ここにいる理由を忘れたわけではないよな?」


「……りゆう?」


 ロレンツォの言葉に、漸く部屋の中に目を向けた私は、ここが私の部屋ではないことに気付く。


「仕方がないな。今日は10時から研修がある。9時半にはここを出るから、それまでに準備を整えて。分かったか?」


「‥‥‥‥‥‥ぅん」


 思い出した。今日は魔法少女の研修会だ。

 昨日、日が暮れるまでロレンツォに連れ回された私は、シャワーを浴びた後からの記憶がない。普段昼過ぎまで寝ていて、起きてからもゴロゴロしながら本を読んでいる私が、昨日は夜明け前から目が覚め、朝から害獣を駆除し——しかも、エリンに気付かれないように彼女の手助けをするという面倒なことをして——、慣れない地区の慣れない人混みの中を夜遅くまで観光したから限界だったのだろう。よくシャワーを浴びたものだ。

 ゆっくり体を起こすと、いつもと違うものが肌に触れていることに気付く。



「ぅん?」


 私はいつも、寝る時は下着だけを着て寝る。なのに、今日は何故かパジャマを着ていた。

 サイズはピッタリだが、初めて見るパジャマだ。宿のルームウェアだとは思えないが、私はパジャマを持っていない。


「んー……まぁ、いいか」


 現在時刻は9時過ぎ。普段はまだ寝ている時間だ。

 つまり、今、ものすごく眠い。それはもう、何も考えないで、再び温かい布団に沈んで寝たくなっているほど、眠い。眠過ぎて頭が働いていない。働かせようという気にもならない。

 だから、考えることは諦める。諦めて着ているパジャマは、思考と共にベッドの上に脱ぎ捨てる。


「ああ、そうだ。ハンガーに服をかけてあるから、それに着替えて」


「んー……?」


 私がパジャマを脱いだのを見計らったかのように、脱衣所にいたロレンツォが顔を覗かせて言う。

 すぐに脱衣所に戻って行ったロレンツォから壁に目を向けると、そこにはこれまた見慣れない服がかけられていた。

 水色の生地に白い小さな花の刺繍が散りばめられたオープンショルダーのブラウス。白のショートパンツに、茶色のベルト。

 普段ワンピースばかり着ているから、着慣れないコーデだ。

 だけど眠たい頭は考えることが面倒で、どこから現れた服なのか過った疑問もすぐに打ち捨て、何も考えずに服を着る。

 荷物をまとめて入れてあるバッグにパジャマをしまい、小さめのナップサックにメモ帳と筆記用具と魔法少女専用端末をしまう。

 服を着替え、荷物の準備を終えてから、歯磨きと洗顔をするために脱衣所に向かう。


「ああ、来たか。うん、似合ってるな」


 脱衣所で待機していたロレンツォは、私に目を向けてくると何かに納得したように頷く。


「歯を磨いて、顔を洗ったらここの椅子に座って」


「……ん」


 そしてルシアに指示を出すと、洗面台に道具を並べ出した。

 ロレンツォが何をしたいのか理解できないが、眠くて何も考えたくないから、ロレンツォに言われるまま歯を磨き、顔を洗い、脱衣所の椅子に腰掛ける。


「よし、じゃあいいと言うまで頭を動かすなよ」


 そう言うと、ロレンツォはあらかじめ用意していた櫛で髪を梳かし、慣れた手つきで髪を結い出した。

 みるみるうちに編み込んだ髪を、今度は後ろで1つにまとめていく。

 まとめた髪をピンで止め、1房だけ残していた左側の横髪をアイロンで軽く巻くと、ロレンツォは満足したと言うように頷いた。


「これでよし。時間も、丁度いいな。これを片付けたらすぐに出よう」


 ロレンツォが道具を片付けるのを待ちながら、鏡に目を向ける。

 鏡に映っていたのは、伸びっぱなしの髪を適当におろし、シンプルな無地のワンピースを着ている家での姿とも、フリフリの可愛らしい魔法少女の衣装を身に纏った姿とも違っていた。

 普段は着ないような服と、1度もあげたことのない髪。鏡に映っていたのは、まるで別人だった。


「さて、それじゃあ行こうか」


 洗面台に広げていた道具をバッグに入れて、大きな荷物をマジックボックスにしまったロレンツォに続いて部屋から出る。

 チェックアウトを済ませ、魔法少女協会本部に向かう中、漸く眠気が覚めてきたことで、放棄していた疑問が戻ってきた。


「ねぇ」


「ん、どうした?」


「……服」


「ああ、昨日買っておいたんだ。その格好なら、エリンさんもルシアに気づかないだろう?」


 宿から出る前に私が思ったことは、どうやら当たっていたらしい。

 私はエリンが苦手だ。エリンに会いたくないから研修にも出たくなかった。

 ロレンツォもそれを知っている。だからエリンに気付かれないように変装させた。

 それは分かった。だが、まだ分からないこともある。


「パジャマ‥‥‥」


 きっとパジャマもロレンツォが買ったものだろう。私は必要としていないから自分では買わない。欲しいなんて1言も言っていない。なのに、何故パジャマを買ったのだろう。


「ずっと思っていたんだが、寝る時はパジャマを着た方がいい。睡眠の質にも関わってくるらしいしな。毎朝寝覚めが悪いのはパジャマを着ていないからだと思う」


「……余計なお世話」


 私は寝覚めが悪くて困ったことはない。

 パジャマを買うくらいなら、本を買って欲しかった。その方が私が喜ぶ事をロレンツォは知っている筈なのに。

 何を言ってもロレンツォはパジャマを買っただろうし、私はこれからパジャマを着て寝なければならない。無いからという言い訳はもう通用しない。

 色違いも買ってあるだの、毎日来て寝る事だのとうるさいロレンツォを無視して、小さく溜息をつく。

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