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プロローグ

『J地区5丁目時計台付近にて、災厄レベル3、害獣No.6、テネーオが出現。魔法少女は直ちに現場へ向かい、害獣を撃破せよ。繰り返す。J地区5丁目時計台付近にて……』


「仕事か。すぐ向かおう」


 端末から流れるアナウンスを強制的に消して、重たい腰を持ち上げると、すぐ側で勝手に私の本を読んでいた長身の男も立ち上がる。

 彼を無視して、右耳についているピアスに触れて魔力を流し込む。パアっと淡い青色に包まれると、一瞬のうちに部屋着のシンプルなワンピースから可愛らしいフリフリの服装に変わり、体は一気に軽くなる。

 玄関まで行くことが面倒で、窓を開けて桟に足をかけたところで、右肩にフワフワした物体が乗りかかってきた。


「毎度言うが置いて行くな。お前は強いが、万が一が無いとも限らないからな」


「チッ」


 チカリ、と視界で青い光が反射する。私の右耳にあるピアスと同じ青い石の付いたピアスが、右肩に乗る銀色の猫の左耳で光っている。

 可愛らしい猫の姿でも、実際の姿は「可愛らしい」から遠くかけ離れている。そのことを誰よりも理解しているのが、当人である彼だから腹立たしい。

 だが、何よりも私を苛立たせるのは、彼のこの態度だ。彼は私が強いことを認めながらも、私が1人で戦うことを許さない。「万が一があってはいけない」と、必ず私を守ろうとする。それを私が望んでいないと分かっていても。

 敢えて聞こえるように舌打ちをして、そのままタンッと体を外へ投げ出す。

 ここは5階。この建物の最上階。目の前には少し低いところに隣の建物の屋根がある。

 ピアスの効果で軽くなっている体は、フワリと建物の屋根に着地する。と同時に、屋根を強く蹴る。そして続く建物の屋根を足場に街中を駆け抜ける。

 ここはG地区。現場のJ地区までは、()()()駆けて1分弱。もちろん最短距離で。


「あいっ変わらず、こっちの身を考えないな!もっとゆっくり走れないのか?!」


「うるさい痛い」


 肩に乗るシルバーの毛並みの猫が、全速力で駆ける私から振り落とされないようにと爪を立てる。

 本当の猫ではないから、爪の先は本来の猫のものよりも鋭くはない。それでも振り落とされないようにしがみついてくるから、私が足を屋根につけるたび、爪の先が肩に食い込む。傷はつかないけど、この姿では痛みは緩和されるけど、それでも痛い。


「嫌なら降りれば?」


「っだから!俺を!置いていくな!」


「うるさい」


 振り落とされないように力を入れているからか、右肩の猫の声は勝手に大きくなる。耳元で叫んでいるからうるさい。


「ああ?!」


「だからうるさい」


 いい加減にしてほしい。毎度現場に向かうたびにこのやり取りをしている。お陰で右の耳の聞こえが前より悪くなっている気がする。迷惑だ。すごく。かなり。


 そうこうしているうちに、あっという間に現場、J地区5丁目の時計台前までやってきた。

 ヒラリと私から飛び降りた猫は、瓦礫をかき分け、小さな体でスルスルと時計台のてっぺんまで登って行った。その体であっという間にこの街1番の建物の屋根まで登ることができるなら、わざわざ私の肩に乗らなくても私についてくることが可能なのに、あいつはいつもそうしない。それが余計に私を苛立たせる。

 猫に対する不満は溜まっていくが、今はそんな事を気にしていられない。魔法少女の私にはやることがある。

 害獣テネーオの足元まで一瞬で距離を詰める。

 害獣テネーオは、この街で1番大きな建物である時計台と同じ大きさだ。当然J地区に辿り着く前からでも姿を認めることができていた。それほどのサイズの害獣であるから、重さもとんでもないものだ。こいつによってメチャメチャになってしまった地面は、闘う時の足場には出来ない。周囲の建物もテネーオによって破壊されてしまっている。足場に出来る場所は、1つを除いてない。そしてテネーオは、害獣の弱点である魔石が額の中心にある。地面からではどう狙っても届かない。

 テネーオの足元に到達した私は、瞬きする前に、テネーオが次に足を持ち上げる前に、すぐさま地面を蹴る。

 一瞬にしてテネーオの腰まで飛び上がった私は、テネーオの腰から飛び出た突起に降り立つ。

 テネーオは全身にゴツゴツした岩のような突起がある。その突起を足場にして、テネーオの額の石を狙える場所まで行けばいい。

 暴れるテネーオの体から振り落とされないように気を付けながら、特に突起の多いテネーオの背中を駆け上がる。

 私がテネーオの肩まで到達したと同時に、右耳のピアスが淡く光って熱を持つ。時計台にいる猫が、私の体に防御結界を張った反応だ。

 テネーオの肩を蹴り、宙に躍り出る。すぐにテネーオの頭よりも高く上がった体が、降下を始める前に左の薬指に嵌められた指輪に右手をかざして魔力を形にする。指輪に溜まっていた私の魔力は、すぐに私の手に合わせて姿を変えていく。みるみるうちに私の体よりも大きな武器となった魔力を構えて、テネーオの額に向けて狙いを定める。引き金を引いて、私の魔力の塊を打ち付けると、見事にそれはテネーオの額の中心を打ち抜いた。

 ゴオォッと地を震わせる叫びをテネーオが上げた直後、ピシリと音を立ててテネーオの額の石にヒビが入った。みるみるうちにヒビは大きく深くなり、テネーオの魔石はパァッと強い光を放って砕け散った。

 目の光を失ったテネーオが地面に倒れて街への被害が拡大する前に、魔力の形を変えてテネーオの四肢を、首を小さく切断していく。切り刻んでいく端からサラサラと灰になって、とうとう時計台と同じ大きさだった害獣は小さな魔石を残して全て消えてしまった。

 テネーオの残した魔石をポーチにしまい、これで私の仕事は終わりだ。さっさと帰ってシャワーを浴びて寝よう。

 地面を蹴ろうとしたところで、再び右肩に重みがかかる。


「だから、俺を置いていくなと言っているだろう、ルシア」


「チッ」


 魔法少女である私の仕事は害獣の駆除だ。それが終わったらすぐに立ち去るのが鉄則。街の修繕などの後始末は、魔法少女協会が行うことになっている。


「おい、また舌打ちしたな。さっきのも聞こえていたんだからな。契約精霊虐待だぞ。謝れ」


「ロレンツォうるさい」


「うるさいとは何だ、うるさいとは」


「そのまんまの意味」


「何だと?!俺のイケボをこんな近くで聞けるんだ。ありがたく思え!」


「うるさい」


 相変わらず耳元で大声を出すロレンツォにうんざりしながら、私は自宅の小さなアパートを目指す。


 これは魔法少女である私ルシアと、私を騙して魔法少女にしやがった契約精霊ロレンツォが、喧嘩しながらも街に現れる害獣と戦う話である。

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