第95話◆王都休日日記〜誰にも邪魔されない、ただの一日〜
世界を飛び回り、外交官として、領主として、学院長として、そしてラーメン職人として――
多忙すぎる毎日を生きる美月にとって、今や「何もしない日」は、最高級のごちそうだった。
今日と明日は、完全なる週休二日。
「誰とも約束しない、予定も立てない。メールも使い魔も使わない。料理もしない。掃除も……たぶん、しない」
ふわりとした部屋着に、少しだけ乱れた髪。湯気を立てるハーブティーと、ゆるく開いた日記帳。
ここは、美月の屋敷の一室。護衛も侍女も、今日はそっと距離を取ってくれている。
「……静かだなぁ。あれ? なんか、空間の音が聞こえる……?」
ふと耳を澄ませば、遠くで鳥のさえずりと、噴水の水音。
鼻をくすぐるのは、窓辺のミヅキラベンダーの香り。
「これが、贅沢ってやつだ……」
朝食は、近所のパン屋さんから届けられた“はちみつブレッド”。
カモミールバターを塗って、ちぎって食べるだけで、心までとろけてしまいそう。
「……おいし。あれ? なにこれ、涙出るレベル……」
どんな高級料理も敵わない、ゆっくりとした一口が、心をじんわり満たしていく。
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◆午前十時、ベッドに逆戻り。
「やっぱ、もうちょっと……寝ようかな」
窓際で読書していたはずが、ふと布団に吸い寄せられる。
ふわふわのブランケット、抱き枕チグー(本物は外交中)。
くるまれて、ぬくもりに溶けていく。
「明日もお休み……って、神か……」
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◆午後二時、気まぐれ散歩。
「なんか、ちょっとだけ歩こうかな……」
目的のない外出も、なんだか楽しい。
屋敷からそっと抜け出し、王都の小さな通りをぶらぶらと。
「――あら? 美月さま? おひとりで?」
八百屋のおばちゃんが目を丸くする。
「今日はね、こっそり休日中なんだ。なんでもない日、楽しんでるとこ」
「まあまあ! それはいい! じゃあ、このミヅキにんじん、焼くだけで甘くておいしいよ〜!」
「あっ、買います!」
結局少しだけ買い物してしまった。
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◆午後六時、お風呂の幸せ。
「ひとり用の薬湯、入れてみようかな〜……」
ラベンダーとミントの薬湯。ふわぁっと香って、目の奥がじんわり温まる。
誰もいない。誰も呼ばない。湯船の中で、ただひとりの自分。
「ふぅ……最高……これ以上、何を望むことがあるのか……」
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◆夜、誰にも言わない幸せ。
夜食は、昼に買ったミヅキにんじんをオーブンで焼いただけの素朴なプレート。
そこに、ちょっとだけハーブソルトをふって。
「うわ、これ……んまっ」
ソファに寝そべって、ほろほろと崩れるにんじんをつまみながら、読書。
少しだけ涙がにじんだ。
「……こういう日、もっと早く作ればよかったな」
思えば、日本にいた頃も、いつも動きっぱなしだった。
休むこと=怠けることだと、思い込んでた。
でも今は違う。
「休むのって、大事だ。自分を大事にするって、こういうことなんだなぁ……」
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◆そして二日目も、同じように。
美月は、誰とも話さず、誰にも会わず、ただ“何もしないこと”に全力で取り組んだ。
冷蔵庫の残りものでスープを作り、ホットカーペットの上でお昼寝し、
窓の外に雪がちらつくのを眺めて、にやりと笑う。
「最高すぎる。……週休二日って、人生革命だわ」




