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第9話 ラーメン屋の娘 学院長になる

風見亭の湯気は、今や一地方都市の名物ではなくなっていた。

冒険者たちの間で「回復する飯」「疲労が取れるスープ」と称され、

貴族たちには「身を清める魔法の一杯」と讃えられ、

学者たちはその栄養バランスと味覚構成を“食物機能革命”と論文に記した。

そして何より、美月のラーメンには“生きる力”があった。

そんなある日、風見亭のカウンターに、ギルド長ガロスがふらりと座った。

彼は湯気の向こうから、少し照れたような顔でこんな提案を口にした。

「……お前さんのラーメン、もっと多くの冒険者に届けたいと思わんか?」

美月が目を丸くすると、ガロスは言葉を続けた。

「今、各地の冒険者ギルドから『あのラーメン、こっちでも食わせろ』って引っ切りなしに手紙が来てる。

だが、味を真似るのは簡単じゃない。あの味には、“知識”と“技術”がある。……なら、教えりゃいいんだ」

「冒険者ギルドが出資する。“美月薬膳拉麺学院”、どうだ?」

それは前代未聞の提案だった。

“薬膳”と“拉麺”と“学院”――まるで交わらなかった世界を繋ぐ、革新的な構想。

ラーメンを学問に、職に、未来にするための、本格的な教育機関の創設である。

場所はギルド本部の裏手にある旧訓練場跡地。

既に改修計画が進んでおり、教室、実習厨房、食材保管庫、講義ホールが完備される予定だった。

そして学院の開講時間は、あえて夜――

日中は冒険者や料理人として働いている人々が通えるようにと、**“夜間学院”**として運営されることが決定した。

学院の正式名称は――

《美月薬膳拉麺学院》

〜健やかなる一杯は、世界を変える〜

学院長にはもちろん、美月自身が就任。

彼女はギルドの仕事と風見亭の営業を終えた後、夜に教授として教壇に立つこととなった。

講義は、実践と理論の両方を重視。

•薬膳栄養学:体調に応じた食材の選定と効能の理解

•香味構成論:スープ・香り・トッピングの調和を生み出す技術

•拉麺製麺実技:粉の選定、水分率、寝かせ、打ち方に至るまで

•体調鑑定演習:現場での食欲・栄養診断シミュレーション

•冒険者食糧計画論:高強度活動時に適した調理設計と保存食技術

•美月特別ゼミ:実際に“その人のためだけのラーメン”を一杯作る実習

教科書は、美月の試行錯誤と記録を元に作られたオリジナル。

講義では、彼女自身の旅の記録や、チグーと共に食材を求めた思い出も語られる。

そして、記念すべき第一期生の募集が始まると、

王都からの使者、薬草ギルドの研修生、各地の冒険者、地方の料理人、さらには元兵士や引退した貴族まで――

応募総数は1000名を超えた。

だが、学院の理念は“誰でも入れる”ではなく、“真剣に学びたい者を育てる”。

よって、入学希望者には三段階の選考が課された。

1.書類審査:志望動機と調理経歴、自己推薦文。中には「ラーメンで世界を救いたい」という熱すぎる文章もあった。

2.筆記審査:栄養学・食材知識・衛生管理・料理理論の基礎テスト。

3.面接審査:美月本人を含む学院設立委員会による個別面談。「なぜラーメンなのか?」が必ず問われた。

選び抜かれたのは、わずか100名の精鋭たち。

入学式の日、学院講堂に集った彼らを前に、美月はこう語った。

「私のラーメンは、まだ完成していません。

でも、皆さんが“自分のラーメン”を見つけた時、きっとそれが未来を変えると信じています。

一緒に学びましょう。一緒に、届けましょう。

食べた人の体と心を、温める一杯を――世界に。」

その言葉に、百名の生徒たちの眼差しは、誰よりも熱かった。

こうして、美月のラーメンは“味”としてだけでなく、文化と学問と職業として、

この世界に確かな根を下ろし始めた。

そして、それは新たな成り上がりの物語の、幕開けでもあった。


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