表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/155

18話女男爵、美月誕生?〜ラーメンと爵位の間で〜(続き)

風見亭の厨房――

ぐつぐつと音を立てる寸胴鍋の前で、美月は木べらを握ったまま、じっと湯気の向こうを見つめていた。

(……私は、ただラーメンを作ってきただけ。でも、今はもう、それだけじゃ済まない場所に立っている)

ギルド長の提案、王都からの女男爵の打診、そして全国40店舗への展開計画――

どれもが、大きな意味を持つ責任の重い話だった。

そして、美月は、決めた。

「風見亭のラーメン部門を、後輩たちに任せよう」

________________________________________

◆継承と再編──未来へ続く風見亭

「ええっ!? センセーが厨房に立たなくなるなんて、そんなの風見亭じゃないよ!」

常連のひとりがそう叫んだとき、美月は優しく微笑んだ。

「でも、私の味をちゃんと受け継いでくれる人が育ったんだ。私は今度は、みんながもっとラーメンを届けられるように、後ろで支える番なの」

風見亭ラーメン部門の後任には、元一期生のサリュとパルムが任命された。

「センセーの味、絶対に守りますから!」

「いや、守るだけじゃなく、もっと先に行こうぜ、俺たちで!」

________________________________________

◆40店舗管理へ、本格始動

ギルドが整えた新体制では、各店舗の売り上げの10%が美月個人に入る仕組みになっていた。

「儲け話に聞こえるけど、違うんです」

と美月は苦笑いする。

「それよりも、“健康にいいラーメン”の考え方を、もっと多くの人に届けられるように。……それが、何より嬉しいから」

責任感の塊である美月にとって、「何もしないで得る収益」は心苦しく感じるものだった。

だからこそ、美月は実務として、店舗全体の味の統一、品質基準の策定、地方食材の開発支援などに着手することを決意した。

________________________________________

◆助手募集、ただ一人の手が挙がる

「学院の仕事も、さすがに私一人じゃ回しきれないわね……助手を入れよう」

全生徒に向けた発表がされたその日の放課後。

「助手……やりますわ!」

華麗に挙手したのは、もちろん、貴族令嬢リリアーナ・フェルナンデス。

「やっぱりね……」

「他の方々は?」

「……リリアーナ様が立候補されたので、誰も出てきませんでした」

助手希望は、彼女一人。

「お手伝いだけでなく、学院長の身の回りも、心も、体調も、わたくしがすべてサポートいたしますわ!」

「え、ちょ、ちょっと心と体調は自分で管理できるから……!」

「謙遜ですわ! 美月さまは無理をなさるお方……ああ、助手の特権……」

(助手というより、全力で世話焼きに来てる!?)

けれどその熱意も本物で、学内では「助手リリアーナ、実はすごく優秀説」が噂になり始める。

________________________________________

◆女男爵の影、そして広がる未来

そして、その数日後――

学院長室に届けられた、一通の書簡。

金の縁取りが施されたそれは、王都より届いた正式な勅状であった。

《本日をもって、薬膳拉麺学院長 美月殿を、「薬膳文化の推進」における功績により、正式に“女男爵”の称号を授与する》

その手紙を開く美月の横で、リリアーナは小さく、ガッツポーズ。

「うふふ……やりましたわ」

「リリアーナ、あなた……やっぱり動いてたのね……?」

「ええ、そりゃもう。あの味は、国宝ですもの」

________________________________________

新たな肩書き「女男爵」。

けれど、美月が向かうのは――

明日も変わらず、厨房の片隅にある、湯気立つ一杯のスープの先だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ