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第16話 卒業制作月間、始動──それぞれの「ラーメン物語」

学院の中庭には、春の風が流れ、あちこちの窓から香ばしいスープの匂いがこぼれていた。

「さぁ、いよいよ卒業制作だぞ! 一年間の集大成を、全力でぶつけるんだ!」

美月が明るく宣言したその日から、生徒たちはそれぞれに「自分の一杯」と向き合い始めた。

________________________________________

【厨房にこもる者、山へ挑む者】

筆頭の努力家・サリュは、朝から晩まで厨房にこもり、火霊草と豆の出汁を掛け合わせた「気力回復系・香豆白湯麺」を完成させようとしていた。

「ううっ……あとひとつ、コクが足りない……くぅぅ……!」

「大丈夫、サリュならできる。焦げ臭い時点でスープ交換な?」

「センセー! わかってますーっ!」

一方、剣術出身のパルムは、故郷の海の魚介を生かした「黒潮ラーメン」を作るべく、友人とともに遠征へ。

「センセー、ちょっと海まで行ってきます!」

「うん、安全第一でね! チグーが鼻を効かせてくれるから、任せたよ」

「ぐるっ!」

チグーが腕章つきの探検帽をかぶり、冒険隊のマスコットとして同行していた。

________________________________________

【“誰かのために”を追い求めて】

別のグループでは、「大切な人に食べさせたい一杯を作る」という課題を思い出し、それぞれに悩み、もがく姿も。

「俺さ、親父と最後にまともに話したの、中学の頃なんだよね……だから“わだかまりをほぐすラーメン”、作りたい」

「すごい、あんたカッコいい! 私は妹が野菜嫌いだから、“気づかず栄養取れるラーメン”目指してんの!」

美月は、そんな生徒たち一人一人に、スープを啜りながら本気でアドバイスを返した。

「それね、コクでごまかしちゃダメ。むしろ“心に残る後味”が大事なんだよ」

「うっわ……それ、泣けるやつ……!」

________________________________________

【静かに進む、もう一つの物語】

その頃――

王都の貴族社交サロンでは、ある話題が静かに波紋を広げていた。

「ご存知ですか? あの《風見亭》の女主人、美月殿。ラーメンという異文化を民の間に根づかせ、学院を建て、食文化を進化させたと」

「しかも、貴族にも平等に振る舞うとは……それでいて人心をつかみ、学院の運営、財務、育成までこなしている」

「女男爵に相応しい人材だと思いませんか?」

その中心にいたのは、リリアーナの両親――第七地区・外務付与侯爵家の当主夫妻だった。

「お父様、お母様。どうか、彼女を正式な位階へ……この国の未来の礎とするために」

「リリアーナ、あの方が爵位を望むと思うか?」

「思いません……でも、あの方に相応しい世界を、私たちが用意してあげたいのです!」

侯爵夫妻は少し笑みを浮かべた。

「おまえが“誰かのために動いた”のは初めてだ。……わかった。ならば、我々も本気で動こう」

政務官、軍部、そして国王直属の食文化審議会に至るまで――

リリアーナと両親は、秘密裏に“美月女男爵計画”を着々と進めていた。

そして、卒業式の日――美月がまだ知らぬその未来が、彼女のもとへと忍び寄っていたのだった。


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