第15話 美月、休息日和
走りながら、笑って、学んで、伝えて。
そしてまた、新しいラーメンを目指して――今日も、幸せな忙しさに包まれている。
第15話 美月、休息日和
朝、鳥のさえずりで目を覚ましたのは何日ぶりだっただろう。
「……うん、今日は……おやすみっ!」
掛け布団を顔にぎゅっと押し当て、ベッドの上でころりと寝返り。
横ではチグーがすでに起きていて、美月の枕元に顔をうずめていた。
「おはよう、チグー。今日はのんびりしようね」
________________________________________
◆ 午前 ― 市場ぶらり編
午前中は、風見亭のエプロンをつけず、シンプルなワンピースで町へ出る。
市場では、すぐにいつもの顔ぶれが美月に気づいた。
「おや、美月ちゃん! 今日はお休みかい?」
「はい、やっとお休みなんです。ふふ、今日は見るだけのつもりで……」
「見るだけなんて言わずに、ちょっと味見していきなよ。新しく仕入れた“春香人参”、甘くて美味しいよ」
「あ、それは……うわ、ほんとだ! これ、スープの甘み出しに合いそう!」
「……って、休みだって言ったじゃない!」
町の人々は笑い、美月も頬を赤く染めて肩をすくめる。
チグーはというと、果物屋の台に前足をかけて、熟れたベリーボールの香りにうっとりしていた。
「チグー、それはダメ。あとで買ってあげるから……って、ほら、店主さんが笑ってるし!」
________________________________________
◆ 昼 ― 公園での小さな昼食会
市場を後にし、広場の公園で軽くランチ。
手作りの小さな“冷やし薬膳麺”に、市場で買った焼き芋を添えて。
そこに、風見亭の常連の子どもたちがやってくる。
「みーづきーさーん! 今日ね、学校でがんばったんだよ!」
「えらいね! よし、お姉さん特製の“がんばりポイントステッカー”、はいっ!」
「やったー!!」
子どもたちと遊びながら過ごす昼下がり。
チグーはすっかり子どもたちの遊び相手で、ボールを鼻で転がしたり、背中に乗られたりしても、ぐるぐるとのんびり構えていた。
「ふふ、なんだか……こんな日も、いいね」
________________________________________
◆ 夕方 ― 町の本屋とパン屋へ
日も傾き始めたころ、ふと思い立って小さな本屋へ。
「薬膳ラーメン入門」「香草の香り学」……から始まり、
「恋するパンケーキ日記」や「異世界ロマンスのすべて」なんて本まで手に取りかけて、思わず笑って戻した。
「うちのラーメン娘さんが、乙女な本読んでたら、町中が驚くよ〜」
「し、しーっ! それは内緒!」
パン屋では、焼きたてのハチミツブレッドを買ってベンチに腰かける。
チグーは足元で丸くなり、ほんのり甘い香りの中で、まどろみ始めた。
「……ねえチグー、またこうして、のんびりする日が来るといいね」
空にはゆっくりとした夕焼け。
美月は、ひと口パンをかじって、そっとつぶやいた。
「……幸せって、こういうことなんだろうなあ」
________________________________________
その日、美月はただの女の子として町を歩き、笑い、ふれあい、穏やかな眠りについた。
誰かのために動く日々も素晴らしいけれど、
“自分のために過ごす日”も、きっと同じくらい尊い。
次のラーメンは――もっと優しい味になるかもしれない。