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第13話 リリアーナ、ラーメン道を征く

学院入学当初――

リリアーナ・フォン・ヴァルトラインは、間違いなく異彩を放っていた。

「庶民の台所!? なんと神々しい響きでしょう……!」

美月のラーメンに一目惚れし、“崇拝”からスタートした彼女。

だが、そんな貴族様らしからぬ言動に、他の生徒たちは少し距離を置いていた。

【ある日の実習室】

「リリアーナ、それ味見した?」

「ええ、舌先で優しく五感に訴えかけ……あら!? なんだかしょっぱ……いですわ!」

「塩、三倍量入ってるよ!!」

「庶民の“しょっぱい愛情”というものかと……!!」

「違う! 体に悪いヤツだよそれ!!」

美月は笑いつつも、彼女の頑張りを見ていた。

毎晩自室で野菜を刻み、香草をすり潰し、指先に絆創膏を貼って教室へやってくるリリアーナ。

最初は、可憐なドレスの裾をだしで汚しては青ざめていたが、

今では腰にエプロンを巻き、堂々と鍋をふるうまでになっていた。

【ある日の学食】

「な、なんで私のスープ……こんなに灰色になってるの……」

「それはね、ルチアちゃん。火霊草を炒めずに煮出すと、香りが出る前にアクが残っちゃうのよ」

「……そっか。ありがとう、リリアーナさん」

「うふふ……庶民の“失敗”もまた、美しき学びの一滴ですわ」

「いや、あんたもこないだ鍋ごと爆発させてたじゃん!」

「しっ、あれは“過熱への愛が高まりすぎた”のですわ」

いつの間にか彼女の回りには、相談を持ちかける生徒や一緒に笑う仲間たちが増えていた。

「ねぇ、リリアーナさんの声って、なんか元気出るよね」

「うん、明るすぎて落ち込めないもん。失敗しても“まあいいか”って思える」

“崇拝”は“尊敬”に、“尊敬”は“仲間意識”に変わっていった。

【ある夜の教室】

美月がひとり片づけをしていると、リリアーナが湯気の立つ丼を持ってきた。

「これ……本日、わたくしがひとりで炊いた“薬膳鶏白湯らぁめん”ですわ。召し上がっていただけます?」

「わあ……ありがと、でもいいの? これはきっと、誰かのために作った一杯でしょ?」

リリアーナは小さく笑って答えた。

「ええ、学院長様――いえ、“美月先生”。これは、わたくしが“あなたのようになりたい”と思って作ったラーメンですの」

一口すすると、優しい甘みとコク、そしてほんの少しの火霊草の香りが、心の奥をあたためた。

「……おいしい。ほんとうに、おいしいよ、リリアーナさん」

「……ほほほ! も、もっと褒めてくださいまし!」

「もう~、そこは素直に照れなさいよ!」

二人は笑い合いながら、机を挟んで肩を並べた。

それからも、リリアーナは相変わらずテンション高めな言動を残しつつ、

厨房の裏で黙々とスープを撹拌し、誰より丁寧に丼を洗い、後輩には笑顔で味見を教える。

学院ではいつしか――

「困ったらリリアーナさんに聞けばいい」

「彼女、なんだかんだで頼りになるよ」

「いつもいると明るくなるよね」

そんな言葉が、自然と聞こえるようになっていた。

ある日、美月が学院のノートにそっと書き残した言葉。

「“ラーメンの味”は変わるけど、“ラーメンを作る人”の優しさは、ちゃんと伝わる」

それを、こっそり読んだリリアーナは胸元を押さえ、頬を染めてつぶやいた。

「……ふふふ。やっぱり、美月様は罪深いお方ですわ……♡」

________________________________________

そして今日もリリアーナは、愛と情熱と少しのズレを抱えながら――

誰かの心をあたためるラーメンを作り続けている。

その姿はもう、**崇拝者ではなく、立派な“仲間”**だった。

________________________________________


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