第2章 第14話 「空に浮かぶ、週休3.5日会議」
「……ところで、美月陛下」
農務長官ティエルが、おずおずと手を挙げた。
「地上で進めておられる“国民幸福度重視”の政策、あれは本当に効果があるのですか?」
「はい。まだ始めたばかりですが、体調改善、家族時間の増加、仕事効率の向上……どれも数字に現れています」
美月は胸を張る。
「そして……」
彼女はにっこりと笑った。
「週休3.5日制です!」
「しゅ、週休……なに?」
商務長官が目を瞬かせる。
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◆ 週休3.5日の衝撃
「月曜から木曜の午前まで働いて、木曜午後から日曜まで休むグループA。
金曜から火曜午前まで働くグループBに分けて、国は休まずずっと働く仕組み。
「つまり、国全体が交代で休む仕組みです」
美月は、卓上に置かれたスープ皿の縁に指で円を描くようにして説明した。
「休日が分散するから、観光地も市場も混まないし、逆に平日がガラガラになることもないんです」
「なるほど……」
財務長官が眉をひそめる。
「でも、それだと働く日が減る分、生産力が落ちるのでは?」
「ふふっ、そこがポイントなんです」
美月は小さくウインク。
「0から90点までは労力1、でも90点から100点にするためにも同じ労力1がかかります。その後者を休みに回すんです。結果、90点仕事を続けているうちに自然と100点に近づくんですよ」
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◆ 想定外の反応
「……週休3.5日か……」
ゼファル王子が頬杖をつきながらぽつり。
「いいな、美月。俺、もう明日からそれにしたい」
「殿下、それは王子の立場としてどうかと……!」
リリアーナが即ツッコミ。
「だって俺、休日が少ないと、君と一緒に過ごす時間も減るし」
「……あら、そういう言い方をされると否定できませんわね」
クラリーチェまでほんのり赤くなっている。
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◆ 相談会という名の雑談会
「でもなぁ……」
軍務長官が腕を組む。
「医師やヒーラー、魔物討伐の騎士団は100%の働きが必要だろう?」
「ええ、だからそこは人員を倍にします。そのための教育費も、私の薬膳拉麺グループの利益でまかないます」
美月がさらっと言うと、場の空気が一瞬止まった。
「……美月陛下」
国王が目を細めて笑う。
「あなた、ここでも経済ごと変えてしまうつもりですね?」
「はい。この国がもっと笑顔になるなら、やります」
美月はきっぱり答えた。
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王宮の高窓からは、柔らかな光が差し込む。
“幸福度を国の指標にする”――そんな前代未聞の政策が、この空の国でも形になろうとしていた。
そして討議は、やがて「じゃあ試験的に来月から始めてみよう」という、思ったより前向きな結論にたどり着いたのだった。
◆ 方針統一の提案
「……そもそも連合王国なんですから、ここ天空国と地上国で休日制度がバラバラなのも変ですよね」
美月はカップに口をつけながら、さらりと言った。
「本当は、地上で実績を作ってから提案しようと思ってたんですけど……やっぱり最初から同じ方針にしたほうが良いかと」
「つまり、週休3.5日制度を連合全体に?」
財務長官が目を見開く。
「はい。混乱はありますが、メリットも大きいですから」
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◆ 王子への報告
美月は隣に座るゼファル王子に視線を向ける。
「ゼファル……ごめんね、報告が遅れちゃって」
「ん? ああ、いいさ。君のやることは信じてるから」
王子は微笑みながら肩をすくめた。
「ただ……俺の休日が減るような制度じゃなければな」
「むしろ増えるんじゃないですか?」
クラリーチェがにやりと笑う。
「だって殿下、美月様の提案なら、休日はたっぷり取れるんですもの」
「……そうか。それなら異議なしだ」
ゼファル王子はあっさり降参。
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◆ 会議の空気
「では、この案は連合王国全体で同時導入という方向で進めましょう」
国王がゆっくりと頷く。
「地上と天空が同じリズムで休み、同じリズムで働く――それは連合の一体感を高めるはずです」
「ただし……」
軍務長官が手を挙げた。
「重要職種の100%稼働は忘れずに」
「もちろんです。そこは教育と増員で対応します」
美月は即答し、笑顔を浮かべた。
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こうして、週休3.5日制度は連合王国全体での実施が正式に決定。
次なる舞台は――「制度導入初日」そのものが国中の話題となる、ちょっとしたお祭りの日となるのであった。