第2章 第6話 「命を守る者たちにも、幸せな休日を!〜医療・騎士団・ヒーラー部会の葛藤〜」
連合王国・大公会堂 分館会議室。
そこでは今、ひときわピリついた空気の中――医療部会、騎士団部会、ヒーラー部会の合同会議が開かれていた。
「週休3.5日……はっきり申し上げて、無理です」
まず発言したのは、筋骨隆々の騎士団長レオンハルト。
「魔物は休日を選ばない。敵襲も、休日を見て見逃してはくれませんぞ!」
「それはそうなんですけど……」
と、おずおず手を挙げたのは、ヒーラー団の新人“ふわもこローブ”で有名なクラウ。
「でも最近、王都周辺は治安もよくなってますし、魔物も減ってますよね……? だったら、交代制で回せば……」
「ふわもこクラウ君! 君が休んでいる間に、誰かが重傷者を治せなかったらどうする!」
「そ、それは……でも、疲れていたら回復魔法の精度も下がると思います!」
「ぐぬぬ……!」
バチバチと火花の飛び交う議論の中、冷静にノートを取っていたのは、医療長官のルーベンス医師だった。
「……ではこうしてはどうでしょう」
全員がぴしっと注目した。
「王都の医療・防衛拠点を“5つ”に分け、それぞれに完全に独立した人員体制を敷く。そして、休日のローテーションを曜日ごとに少しずつずらしていく。つまり、誰かが休んでいても、必ずどこかに稼働しているチームがいる」
「おお……!」
「それなら、週休3.5日も、休む者と働く者が公平に入れ替わる! 交代制というより“独立制”か!」
「ただし、問題は人員数ですな」
そこへ――
「そのために人件費を増やします!」
ずばーん!と美月が登場。
「……っ! 美月女王!」
「あなた様のご登場は、いつもドラマチックですな……」
「どうも。今回は“助っ人回”みたいなものですから」
くすくすと笑いながら、美月は皆に言った。
「私は、この国に生きる全員が、“仕事を誇りに思える”と同時に、“ちゃんと休める”世界をつくりたい」
「……ですが、我々の仕事は命に関わる。どうしても100%が求められます」
と、レオンハルト。
「ええ。それはわかっています。だからこそ、今より多くの仲間を育てるんです」
「教育機関の拡張を?」
「そう。回復魔法も、戦術も、救命処置も、分野別に分けて、短期間で即戦力になれるような研修体制を組みます」
「ですが、それには多額の資金が……」
「ありますよ。薬膳拉麺の売上が。世界に5万店舗ありますからね!」
「さすが我らが女王、ブレない」
チグーが「グルルグルル~!」と吠えた。
「チグーが“週休3.5も悪くない”って言ってますわ!」
クラリーチェが即通訳。
「うそだ! そんな複雑な内容をチグーが言うわけ……」
「……モフゥ」
「今、絶対“わかってる顔”しましたよ!?」
「ふふ、チグーは表情豊かですからね」
美月はふっと笑ったあと、真剣なまなざしで皆を見回した。
「――来年の春。まずは“モデル都市”として、王都の体制を完成させましょう。そこから、連合王国全体に広げていきます」
「了解しました!」
「各部会、全力で体制を整備します!」
こうして“命を守る者たち”の働き方改革も、具体的なスタートを切った。
かけ声はただひとつ。
「週休3.5日で、世界をもっと幸せに!」
(つづく)