第2章 第4話 「動き出す幸福改革! 理想はみんなで作るもの」
「――以上が、私たち連合王国の、新たな働き方と幸福を目指す社会の骨組みです」
静まり返る大公会堂に、美月の声が響いた。
正面壇上には、美月を中心に、ゼファル王子、リリアーナ、クラリーチェが並ぶ。左右には各業界から選出された幹部たちがずらりと居並び、前方には各国の行政代表者たちの姿もある。
「週休3.5日!?」
「平日と休日を分けて経済を回す? 斬新すぎるわ」
「でも、まさか女王自らここまで具体的な案を……!」
どよめく空気の中、美月は穏やかに微笑んだ。
「私ひとりで叶えられることではありません。でも、仲間がいれば、できます。どうか皆さんの力を貸してください」
その瞬間、誰かがパンと手を叩いた。
「乗った! 面白そうじゃないか!」
立ち上がったのは、建築組合の若き代表、アグニだった。頬にまだ漆喰がついたままの彼は、豪快に笑った。
「昔っから、日曜大工ってのは楽しいもんでな! 休日が増えりゃ、みんなの“楽しい”も増える! うちは協力するぜ!」
続いて声を上げたのは、教育部門の代表、白髪の老教師リドルト。
「教育の世界では“余白”が重要なのです。子どもたちも、教師も、心に余裕があれば学びが深まる。週休3.5日、やってみる価値はあるでしょう」
「医療も、倍の人員で回せるなら……」
「農業はどうなるのか? 作物は曜日を選ばないぞ?」
「輸送業も、物流を絶やさずに休みを作れるかが鍵だな」
次々に飛び交う声。混乱でも混迷でもない。これは、前向きな混乱――未来をつくるための議論の始まりだ。
その様子を、ゼファルが横目で見ながら、ぽつりと囁く。
「……この空気、好きだな。誰もが真剣に、でも楽しそうに理想を追ってる」
「はい」と美月は微笑む。「この世界で、夢を見るだけじゃなくて、叶えられる空気を作りたかったんです」
クラリーチェがくいっと手を挙げた。
「ところで、休みが増えるということは、お茶会の回数も……」
「クラリーチェ様。まずは計画書を出してからです」とリリアーナが即座に遮る。
「むむ……堅物ですわね、リリアーナったら」
「私は、女王陛下のために働いているのです。夢見心地で改革はできません」
「でもその“堅物”がいるから、私はこの国を安心して任せられるんです」
微笑む美月に、リリアーナが目を丸くし、少しだけ頬を染めた。
こうして、連合王国の「幸福度最優先・週休3.5日プロジェクト」は、各部会が設立され、1年後の実現を目指して本格的に始動したのだった。
――けれどこのプロジェクトの裏で、まさか“ラーメン湯けむり会議”が開催されるとは、まだ誰も知らない。