第2章 第3話 「幸福度という名の革命、女王の宣言」
連合王国建国から三ヶ月。
新王都ラーナ・セリーナの中心にそびえる白亜の大公会堂は、早朝から多くの人々で賑わっていた。今日は、女王美月の提唱する「新国家方針発表会」が行われる日だ。
「こ、こんなに集まるのって聞いてませんでしたよ!? てっきりラーメン無料配布の時くらいの規模かと……!」
「そのラーメン配布の時、来場者十万でしたけどね」
クラリーチェがにっこり微笑む横で、リリアーナが冷静に返す。
「それにしても、やっぱり女王様って、何かと人を巻き込みますわよね……いい意味でですけど!」
「ふふ。私たちが最前列にいるのも当然ですわね」
前に並ぶのは、各国から集まった産業組合の長、医療代表、騎士団の団長、教育機関の責任者、そしてもちろん——ギルド長の姿もあった。
その場に、ゆっくりと現れたのは白いドレスに金のラーメンの刺繍があしらわれた装束を纏う美月。
堂々とした歩みに、会場が自然と静まり返る。
「皆さん、今日はお集まりいただきありがとうございます」
マイクではなく、風の精霊魔法を通じて声が会場全体に響く。
「私は、今この国を“世界で一番幸せな国”にしたいと思っています」
ざわ……と小さなざわめきが広がる中、美月はやさしく微笑んだ。
「具体的に言えば、週休三日半制度の導入です」
「三日半!? 週の半分以上が休みじゃないか!」
「働く時間を減らすのか!? 本当に回るのか、それで!」
「ラーメン屋は大丈夫なのか!?」
どよめく空気を静めるように、美月は手を挙げた。
「もちろん、すべての業種で一律にというわけではありません。医師、ヒーラー、魔物対応の騎士団など、命を守るお仕事は100%の力が求められます」
「では、それ以外は90%でもいいと?」
「はい。90%の精度でも充分に世の中は回ります。そして、その“余った10%”を、皆さん自身の幸福に使ってほしいんです」
「幸福……?」
「はい。趣味に、家族に、友人との語らいに。たとえば——おいしいラーメンを食べる時間にも」
会場のあちこちで笑いが起こる。美月は続ける。
「また、週休3.5日制度の導入によって、休日の混雑や平日の閑散を減らすために、国民をAグループとBグループに分けることを検討しています」
「なるほど、それで“平日しか休めない問題”も解消されるというわけか……」
ギルド長が腕を組みながら感心したようにうなずく。
「この制度を実現するためには、教育体制や人員配置、そして予算の再構築が必要となります。幸いにも、美月薬膳拉麺グループの利益があります」
「いやぁ、それが使えるのがすごいよな……国家予算か、ラーメンの売上かっていう」
ゼファル王子が苦笑交じりに肩をすくめ、クラリーチェが胸を張る。
「それもこれも、私たちの美月様のお力ですわ!」
「むしろ、女王様が週休2日を死守してることの方が奇跡だと思うんですけど……」
リリアーナがこっそり呟いたのは、会場中に聞こえることなく風に溶けた。
そして美月は締めくくる。
「一年後、連合王国のすべての業界が週休3.5日を実現できるように、各部門ごとに“働き方改革部会”を設置してください。私は、その成果を一年後、皆さんとともに確認し、笑顔で乾杯したいと思っています」
その言葉に、会場から万雷の拍手が湧き上がった。
「女王陛下、万歳!」
「働きすぎない国、最高ーーーっ!」
「よっ、ラーメン革命女王!」
「最後のはちょっと違うけど……うれしいです」
少し頬を染めながら、美月は笑った。
そして、この日から——“幸福の国・連合王国”の新しい歴史が、確かに歩み出したのだった。