第2章第2話◆美月視点「女王なんて、向いてません」
正直なところ、女王になるなんて……夢にも思っていなかった。
ラーメン屋の看板娘だった私が、異世界に転移してからというもの、料理を通して人々の心を癒し、笑顔にできることが嬉しくて、ただただまっすぐに走ってきた。
領主になったときでさえ、「本当にいいのかな?」と不安だったのに。
それが、まさか――女王?
「……あの、リリアーナさん? “連合王国”って、なんですか?」
「はいっ! リリアーナの簡潔な要約によりますと、ゼファル王子との婚姻により、両国が合併して、超仲良し大国家になるというプランでございます!」
「えっ、簡潔すぎません!?」
「つまり、美月様が女王になれば、どちらの国の王も“嫁がれた”ことにはならず、両国民の納得が得られるのですわ!」
「いやいやいや、女王ってそんな軽く言っていい役職じゃないですから!」
ギルド長も苦笑いして口を挟む。
「でも、お前ならやれるだろ? お前ほど皆に信頼されてる人間、他にいないしな。……しかも、本人が女王なのに、週休二日を貫こうとしてる。そんなの、逆に安心感しかねぇよ」
「たしかに、異例中の異例ですが……結果として、最も中立で平和的な選択肢には違いありません」
クラリーチェは、まっすぐな瞳で私を見つめていた。
「美月様は、ラーメンを通してたくさんの命と国を救ってこられました。その延長線上に、“連合王国の女王”という肩書きがあるだけですわ」
「…………」
自分の心が、不思議なほど落ち着いていることに気づいた。
昔の私だったら、こんな重責を前に、震えていたかもしれない。
でも、今は違う。
ゼファル王子、リリアーナ、クラリーチェ、チグー、ギルド長、学院生たち……
そして、全国のラーメンを愛してくれる人たち。
支えてくれるみんながいて、私も“未来”を見られるようになったんだ。
「……わかりました。私でよければ、務めさせていただきます」
そう言うと、周囲の空気が一変した。
「おおおおおおお! 薬膳女王、誕生だァァァァァ!!」
「もふもふー!!!」(チグー、大ジャンプ)
「わたくし、この瞬間のためにドレスのデザイン草案を十二枚ご用意しております!」
「おい、それ全部ピンクだったろ」
________________________________________
◆初代女王の“初仕事”とは?
戴冠式では、いろんな人に頭を下げられた。
「ははは、女王にされて、頭の下げっぱなしじゃ意味ないですね……」
とつぶやいたら、リリアーナがこっそり耳打ちしてきた。
「――それが、美月様の魅力なんですわ」
そう言って、ふわりと笑う彼女の横で、クラリーチェが真顔で言った。
「むしろ、戴冠式を終えた後に、エプロン姿でラーメン作りに戻る女王が唯一無二ですわ」
ああ、きっと私は――
この世界で、女王になるべくして、ここまで歩んできたのかもしれない。
ラーメンで、心を救い、世界を癒す。
それが私の“即位の誓い”。
________________________________________
◆美月、薬膳女王としての一歩
「……さて、試作の時間です!」
王冠を置き、髪をひとつに結び直し、白いエプロンを身につける。
女王であろうと、私は“料理人”。
今日も誰かの体と心に効く一杯を、
この両手で、作っていくのです――!