第11話 薬膳課題:想いを込めた一杯を
──“誰かのために”ラーメンを作るということ──
「さあ、今夜は特別な授業です」
美月が柔らかく笑いながら、講義室の中央に立つ。
机には、生徒たちが持ち込んだ様々な食材が並び、室内にはそれぞれの思いが静かに漂っていた。
「あなたが今日作るのは、“あの人”に届けたい一杯。
味も、香りも、盛り付けも――すべてが“気持ち”を語るものになります」
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【1. リコルの一杯】
陽気な冒険者志望の青年リコルは、いつもふざけて教室を盛り上げていた。
だがこの日は、珍しく真剣な表情で鶏ガラを煮込んでいる。
「俺、姉ちゃんに作るんす。小さい頃、親がいなくて……姉ちゃんが毎日まずいスープ作ってくれたんすよ」
「今度は俺が、うまいスープで“ありがとう”って言いたくて」
刻んだ薬草と甘味野菜、素朴で優しい味わい。
試食した美月は、微笑んだまま目を細めた。
「……きっと、すごく喜んでくれるわ」
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【2. シーナの一杯】
薬草オタクの少女シーナは、香草とスパイスを丁寧に選びながら悩んでいた。
「ラーメンって、甘くしてもいいのかな?」
「誰に作るの?」
「……おばあちゃん。歯が弱くて、スープばっか飲んでるの。だから、飲むだけで心がホッとするやつにしたい」
結果、シーナが完成させたのは――野菜の甘みと柔らかく溶ける米麺を合わせた、スープ仕立ての“飲むラーメン”。
味はほんのり甘く、香りはふわっと森のようだった。
「これ……すごく優しい味がするわね」
「……伝わるかな、おばあちゃんに」
「きっと。言葉以上に」
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【3. グレンの一杯】
無骨な元傭兵グレンは、厨房の隅で黙々とスープを撹拌していた。
見れば、豪快な獣骨を煮込んだ濃厚な白湯スープ。
「誰に作るの?」
「……昔の部隊仲間だ。三年前、戦地で死んだ。好きだったんだよ、こってりした豚骨ラーメン」
香ばしい脂と焦がしにんにく、仕上げに添えた赤い火霊草の一片。
強さの中に、ふっと心を撫でるような味がある。
「“美味いな”って、あいつなら笑ってくれると思ってな」
「……グレンくん、それ、すごくいい一杯だと思う」
美月は何も言わず、深く一礼した。
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そして最後、美月は生徒たちに静かに語りかけた。
「ラーメンって、元は“庶民の食べ物”って言われてたの。
だけど、私はね……“誰かを幸せにする料理”だと思う。
今日のみんなの一杯は、どれも心を動かす味だった。ありがとう」
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授業の終わり、生徒たちは笑ったり泣いたりしながら、互いのラーメンを味見し合っていた。
教室の空気には、ただの満腹ではない、心のあたたかさが満ちていた。
そしてこの日、美月は確信した。
――“教える”って、味を伝えることじゃない。
想いを、形にできるように導くことなんだ、と。