第109話突然の襲撃
ラルカス王国での禁止令撤廃から数日後――。
美月は王都へ戻るため、少人数で街道を進んでいた。
「……なんだか今日は静かだね」
チグーが「もふぅ……?」と鼻をひくひくさせていた、その瞬間――
ガシャーン!!
道の両側から爆竹のような閃光と煙幕が一斉に上がった。
「うわっ!? なに!?」
「美月様、下がって――!」
リリアーナとクラリーチェが護衛兵と共に剣を抜くが、煙の中から現れたのは武器商人ギルドの傭兵たちだった。
「ターゲットを確保しろ!生け捕りだ!」
「美月様、逃げてください!!」
リリアーナの声が響いたが、すでに美月の背後に回り込んだ傭兵が腕をつかんでいた。
「ちょ、ちょっと! 離して――!」
チグーが吠えながら飛びかかるが、煙幕で視界を奪われ、美月はあっという間に馬車に押し込まれた。
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◆暗い地下牢にて
気が付くと、美月は粗末な木の椅子に縛り付けられていた。
「ここは……?」
目の前の扉が開き、ヴォルクが冷笑を浮かべて現れる。
「ラーメン姫、おとなしくしてもらおうか。
お前がいなくなれば、薬膳外交なんてすぐ瓦解する」
「……こんなことしても、世界は平和にならない」
美月は震える声で言い返す。
「平和? 馬鹿げてるな。戦争があるから、俺たちは儲かる。
儲かるから兵も雇えるし、国も回るんだ」
「……それで救われない人もいるのに?」
美月の真剣な瞳に、ヴォルクは一瞬だけ視線をそらした。
「……ふん、理想論を言うな」
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◆天空王子、颯爽と現る!
そのとき、地下牢の天井がドガァンと吹き飛んだ。
降り注ぐ光と共に、滑らかなワイヤーを伝って降り立つ影――
「待たせたな、美月!」
「ゼファル王子っ!?」
天空王国の王子・ゼファルが、風の魔法を操りながら傭兵たちを吹き飛ばしていく。
「俺がいない間に、また危険な目に遭ってるじゃないか」
「い、いや、今回は私……!」
「言い訳は後だ。今は――行くぞ!」
美月を抱き上げ、ワイヤーに飛び移るゼファル。
高く舞い上がるその瞬間、彼の体温と胸の鼓動が美月の耳に響いた。
「わ、わたし重くないですか!?」
「軽すぎるくらいだ。もっとラーメン食べろ」
「そ、そんな余裕のあるツッコミ……!」
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◆救出後、芽生える想い
安全な場所へ降り立ち、縄を解かれた美月は深く息を吐いた。
「ありがとう……助けてくれて」
ゼファルは微笑んで、美月の頭にそっと手を置く。
「君がいないと、世界が暗くなる気がするんだ。
……いや、俺の世界が、かもしれないな」
「……え?」
美月は顔が熱くなるのを感じた。
「だから、これからはもっと俺のそばにいてくれ」
真っ直ぐな瞳に見つめられ、美月は胸が締め付けられるような感覚にとらわれた。
「……はい。わたしも……もう離れたくないです」
その言葉にゼファルは微笑んだ。
「よし。じゃあ、まずは安全確保だ。
君を狙う奴ら、絶対に放っておかない」