第108話王宮へ招かれた!? そして“勝負”が始まる
ラルカス王国に潜入して数日後――
秘密のラーメン屋は人々の間で評判となり、その噂はついに王宮に届いた。
「お前たち、王宮に召喚されたぞ」
裏路地で、武器商人ギルドに雇われていた傭兵のひとりが駆け込んできた。
「え、えぇっ!? なんで!?」
クラリーチェが真っ青になる。
「ま、まさか捕まる!? 投獄!? 絞首刑!?」
「落ち着けクラリーチェ様。そんなお顔で変装がばれますわよ」
リリアーナは冷静だが、指先が微妙に震えている。
「王様がお前たちに“料理勝負”を申し渡したんだ」
傭兵はため息をつきながら続けた。
「武器商人ギルドが“お前たちの料理は民を堕落させる毒だ”と吹き込んだらしい。
王の目の前で勝負して勝てば、禁止令は撤廃。負けたら国外追放……だそうだ」
「……やるしかないってことだね」
美月は静かに頷いた。
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◆王の晩餐が始まる
煌びやかな王宮の大広間。
長い晩餐テーブルの中央には、威厳ある王が座っていた。
「民の間で流行しているという“薬膳ラーメン”。我が国を乱す危険があると聞く。
しかし……民の声を無視するわけにもいかぬ。お前たちの料理を見せよ」
「はいっ! 王様に喜んでもらえる一杯をお作りします!」
美月は深くお辞儀した。
「フン、笑顔だと? 民を堕落させる笑顔など要らん!」
毒を吐いたのは、王の後ろに立つ武器商人ギルドの幹部・ヴォルクだった。
「これが我らの料理だ」
ヴォルクが示したのは、香辛料を山のように入れた“毒膳スープ”。
「刺激こそ力! 苦しみに耐えられる者こそ生き残る!」
「……それじゃ、ただ心を壊すだけだよ」
美月は鍋に火を入れながらつぶやいた。
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◆美月の渾身の一杯
「ラルカス王国は海風が強いから、体が冷えやすい。それを温める生姜と薬膳ハーブ、そしてこの国で採れる根菜を入れます」
美月は地元の食材を丁寧に刻んでいく。
「麺は? 普段の麺じゃダメじゃない?」
クラリーチェが不安げに尋ねる。
「だからこそ、現地で手に入った粉と塩で打つよ。ここだけの味にするの」
リリアーナは微笑んで手を添えた。
「大丈夫ですわ、美月様の料理には、人の心を包む力がありますもの」
「ありがとう。……よし、完成!」
湯気が立ちのぼる黄金色のスープ。
香りだけで王の眉がわずかに動いた。
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◆運命の試食
「では、王様。お召し上がりください」
美月が両手で差し出すと、王は静かにレンゲを口へ運んだ。
「……これは……?」
スープを一口飲んだ瞬間、王の頬に血色が戻る。
身体の芯からじんわりと温まる感覚。
食べ進めるほど、体の重さが溶けていくようだった。
「……なぜだ? 体が……楽になる……」
「それが薬膳です。体を整え、力を取り戻すための料理なんです」
美月はまっすぐ王の目を見つめた。
「争いをやめ、平和な日常を送るための……料理です」
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◆結果発表!そして…
王は立ち上がり、会場に響き渡る声で宣言した。
「……薬膳ラーメンこそ、我が国の未来だ!
この瞬間より、ラーメン禁止令を撤廃する!」
「おおおおおおおおっ!!」
会場が歓声に包まれる中、ヴォルクが悔しげに舌打ちした。
「……このままでは済まさんぞ、美月。貴様の平和外交、必ず潰してみせる」
その目は冷たく光っていた。