第107話ラーメン禁止国、現る!
「――『ラーメンを食すこと、作ることを禁ずる』……ですって!?」
クラリーチェが信じられないという顔で広げたのは、ある国の官報。
「はい、ラルカス王国の新法ですわ」
リリアーナが淡々と頷く。
「理由は“新しい食品による文化汚染を防ぐため”……ですが、裏で武器商人ギルドが糸を引いている可能性が高いです」
「文化汚染って……」
美月は頭を抱えた。
「薬膳ラーメンで病気が減ったのも、貧困層が元気になったのも見てきたのに……なんで?」
「平和になったら、武器が売れませんもの」
リリアーナがきっぱりと言う。
「つまり、禁止令を解除するには……?」
クラリーチェが身を乗り出す。
「潜入して、現地の人にラーメンの魅力を伝えるしかありませんわ!」
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◆潜入作戦、始動!
「で、なぜ私はこの格好をしているの?」
美月は鏡の前で、普段の女男爵スタイルとはかけ離れた“街角パン屋のおかみさん風”の服装を身にまとっていた。
「変装ですわよ! 絶対バレませんわ!」
リリアーナが得意げにうなずく。
「私は……えっと……吟遊詩人の弟子って設定です!」
クラリーチェは鮮やかなマントを翻し、リュートを抱えてポーズ。
「……いや、絶対バレるよね?」
「大丈夫ですわ、台本も完璧ですから! あなたは“異国の麺職人見習い”! わたくしたちは旅の楽師と護衛という設定です!」
「台本……あるの?」
「ありますわよ!」
リリアーナが取り出した分厚い脚本には、
**『潜入! 禁止国を笑顔にする10のシナリオ』**と書かれていた。
「な、長い……!」
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◆現地での困難
ラルカス王国の街に潜入した3人は、すぐに現実を思い知らされる。
市場の屋台はどこも活気がなく、街の人々の顔は暗い。
「病人が増えているのに、薬が高くて買えない……」
「せめてあのスープがあれば、身体が楽になるのに……」
「でも作っただけで投獄されるんだ」
小さな声で交わされる噂に、美月の胸はぎゅっと痛んだ。
「……やっぱり、作ろう」
美月は決意を固める。
「ここでラーメンを出して、人を笑顔にしよう。きっとそれが、道を開くから」
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◆秘密のラーメン屋、オープン!
「夜になったら、裏路地の倉庫で開店よ!」
リリアーナが人脈を駆使し、秘密の場所を用意した。
「わ、私、チラシ撒いてきます!」
クラリーチェが自作の“秘密の合言葉つき招待状”を手に飛び出していく。
夜になると――
裏路地の倉庫には、噂を聞きつけた人々が続々と集まってきた。
「しーっ、声をひそめて! ここが例の“薬膳スープ”が飲める店か?」
「今日の一杯は、“ミヅキしょうが塩ラーメン”です!」
美月は麺を湯切りしながら微笑む。
「この香り……!」「あったかい……!」「生き返る……!」
一口すすった瞬間、涙ぐむ人もいた。
「この国の人たち、本当にラーメンを必要としてるんだね」
美月の言葉に、リリアーナも静かにうなずいた。
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◆だが、ギルドの影が――
「見つけたぞ……禁断のスープ屋!」
突然、倉庫の扉が勢いよく開かれた。
現れたのは、武器商人ギルドの傭兵たちだった。
「捕らえろ! こいつらを見せしめにすれば……!」
「やばっ! 美月さん、下がって!」
クラリーチェが前に出る。
「ここで捕まるわけにはいきませんわ!」
リリアーナも剣を構える。
「……よし、やるしかない!」
美月は大鍋を持ち上げ、目の前の傭兵に向かって――
薬膳スープをぶっかけた。
「ぐわぁっ!? な、なんだこの……あったかい……!? 体が楽に……?」
「薬膳です!」
美月がにっこり。
「さあ、飲んで落ち着いて。ラーメンを食べたら、きっと争う気持ちもなくなるから!」
「こ、こんな……反則だろ……!」
傭兵たちは次々とスープを口にし、みるみる顔が赤くほころんでいった。