ヤンデレ魔王はお好き?
俺の名前はカイン。
人類最後の希望(自称)で、魔王を惚れさせようとしている勇者だ。
で──肝心のその魔王が、部屋で死んだ魚みたいな目してた。
「こりずによく来るわねお前、またクッキー焼いてきたの?」
「違う!今日は話し合い! あのさ、リリス。そろそろ、リリスの過去とか聞かせてくれてもよくない?初恋はいつとか」
「過去の男を知りたいとか、何かのプレイ?」
「違う!」
──で、聞かされた話がこれだ。
どうやらリリス様、数百年前は“孤独なる災厄”とかいう厨二くさい肩書きで呼ばれてたらしい。
「私は人の憎しみから生まれた。つまり、人間の負の感情が全部ぶち込まれた魔性の集合体」
で、そんな魔王少女にも──惚れたやつがいたらしい。
リアンっていう旅人。ああ、死亡フラグしか見えねぇ。
「彼は紅茶に砂糖を三杯入れる変人だった。しかもスプーンでなく指で」
「食事衛生どうなってんだよ!」
「でも彼だけは、私を“怪物”と呼ばなかった」
しかし──この話、当然ながらバッドエンド一直線。
リリス、恋に目覚めた瞬間に、旅人に殺されそうなる。そう、旅人はリリスを倒すために送り込まれた刺客だったのだ。
「仕様が鬼畜すぎんだろ!? 恋したら死ぬとか、どこのギャルゲーのバッドルート!?」
「ふふ、そうね。愛したら死ぬ。殺すか、殺されるか。それが私」
「ロマンチック風に言うな! 」
「優しかった彼が私を殺すために剣を握った。その瞬間、私は──彼を“吹き飛ばした。彼とはそれっきりよ。だから私はもう、誰も愛さない」
「いやその流れからよく俺を殺さないでくれたな!?」
「暇だったから」
「理由が軽い!?」
リリスはそっぽを向きながら、紅茶を飲む。
「だから、私に惚れさせようとするお前は、本当に救いようのないバカだ」
「知ってる。あと俺とリリスのボケに対してツッコミ役が足りない」
「私もボケなの?」
こうして俺は、魔王の暇つぶしのために生きながらえていることを知ったのであった。