恋の戦場へ
世界の終わりを告げる鐘が鳴ったのは、王都が崩れ落ちた日だった。
空は裂け、大地は割れ、人々は絶望した。
「お前に、この私が殺せるものか」
玉座に腰掛けるのは、あどけない顔をした少女。
その赤い瞳に宿るのは、人間の心などとうに捨てた絶対的な“力”だった。
けれど、少年は剣を手に立ち上がる。
その表情に、勇気でも怒りでもない、奇妙な“覚悟”を浮かべながら──
「魔王、君に俺を惚れさせてみせる」
魔王リリス、その心を奪い、殺すために──
魔王の居城──漆黒の塔。かつて数多の勇者が挑み、誰一人帰ってこなかった死地。
だがその門の前に、今、一人の少年が立っていた。
「よし、行くぞ」
勇者カイン・ブライト、17歳。彼は勇者でありながら、剣を抜かない。
今日の彼の武器は──恋愛マニュアルである。
「魔王リリスを惚れさせるには、まずは“印象的な第一声”が大事か」
彼はボロボロの本を読みながら、魔王の部屋を目指して塔を駆け上がっていた。
モンスターたちは何故か手を出してこない。
(※何故なら魔王リリスに「今来てるの、バカっぽいから好きにさせとけ」と命じられたからである)
やがて最上階。玉座の間の扉が静かに開く。
「魔王リリス! 俺は今日、お前に一つだけ伝えたいことがあるッ!」
威勢よく飛び込むカイン。
だが、その叫びは玉座の少女に届く前に、冷たく切り捨てられる。
「黙れ。うるさい。帰れ」
黒髪の少女──魔王リリスは、興味なさげに紅茶を飲んでいた。
「いや、聞いてくれ! 俺はお前を──惚れさせに来た!」
「ふへっ?」
リリスは紅茶を吐いた。
魔王リリスの赤い瞳が初めてカインを正面から見た。
その表情は「哀れなものを見る目」に近かった。
「殺されたいのか?」
「その逆だ。お前を殺したい。でもそれには、お前に惚れられる必要がある!預言者のオババがそう言って俺を勇者に指名したんだ」
「そんなの信じてこんな所に来るなんて、バカなの?」
「そうだな、恋は人を馬鹿にさせると言う」
静寂。
リリスは立ち上がり、カインの目の前まで歩み寄る。
その顔を、まじまじと見つめ──そして。
「面白い。しばらく踊らせてやる。ただし──私に惚れさせることができなければ、殺す」
「うわ、魔王って近くで見るとめちゃめちゃ可愛いな!」
「予想以上にバカだった」
こうして、
勇者カインと魔王リリスの、“惚れさせて殺す”恋愛攻防戦が始まった──。




