OL魔女の副業
OLとして働く私には密かな副業がある。仕事を終えた金曜の夜、1度帰宅した私は仕事道具をスーツケースに詰め込み、最寄り駅から電車に乗り込んだ。3駅ほどで降りると慣れた足並みで駅前商店街へと進み、とある建物の前で足を止めた。
そこは雑貨屋で、かわいらしい小物から、用途の分からない呪い用品まで幅広く揃ってる。いつも通り裏口から店内に入ると、私に気付いたらしい壮年の女性がこちらに顔を向けた。
「葵ちゃん、お疲れ。今日の予約は1人だっけ?」
「はい。20時からなので、あと30くらいしたら来店されると思います。」
「はいよ。いつも通りお店は20時で閉めちゃうけど、自由に使ってって。最後に消灯と戸締まりだけお願いね。」
「はい。いつもありがとうございます。」
「いつもあなたのおばあちゃんにお世話になってるから気にしなくて良いさ。」
「助かります。」
ペコリと頭を下げ、奥のパーテションで囲まれたスペースの扉へ足を向けた。この雑貨屋の店主――夏子さんには、このスペースを仕事場として無料で貸してもらっている。何でも、私のおばあちゃんと昔からの付き合いらしくて、持ちつ持たれつの関係なんだとか。
さすがに申し訳ないので使用料を払うと申し出たこともあるが、清水さんのお孫さんにお金を払わせるなんて絶対できないと断固拒否されてしまった。
3畳ほどのスペースに入ると、スーツケースから荷物を取り出し、その中にあったローブのような衣装に着替えた。The魔女みたいな黒のローブは、全身を覆い隠せる程大きめなもので、フードを被ると目元まで見えなくなってしまう。
次にスペース中央のテーブルに水晶玉を置いて、スーツケースを見えない位置にしまいこめば準備はおしまい。どこからどう見ても占い師のできあがりだ。
―――――
それから数分もすると占いスペースの扉が開き、若い大学生女性が入ってきた。少し緊張しているのか、うつむきがちにこちらを伺っている。
「ご予約の佐藤様ですね。どうぞこちらへお座りください。」
そう声をかけると女性は頷き、遠慮がちに私の正面のイスに座った。キョロキョロと周囲を警戒しているように見える。
「こういった場所は初めてでしたか?」
「はい…占い自体に興味はあったのでネットとかでは試したことあるんですけど、実際に占ってもらうのは初めてで…。」
「初めてだと緊張してしまいますよね。よかったらこちらどうぞ。リラックス効果のあるハーブティーです。」
先ほど取り出した荷物の中から小さなポットを取り出すと、作り置きしておいたハーブティーをカップに注いで差し出した。女性は遠慮がちに口をつけると、詰めていた息をホッと吐いた。
それもそのはず。これは私の微魔法を使って淹れたスペシャルハーブティーだ。リラックス効果のあるハーブティーをブレンドし、最後に緊張をほぐす魔法をかければ完成。効果は…抜群とは言い難いが、まぁ多少の緊張程度ならほぐせると思う。気休め程度には。
女性の顔色も良くなった…気がする。うん、たぶん。
「今日はどういった内容の占いをご希望でしょうか?」
「実は…3年前から付き合っている彼氏がいるんですけど、別れるべきか悩んでいて…」
「彼氏さんとお付き合いを続けるか、別れるか迷っているという事ですね。」
「そうなんです。ちょっとショックな事があったので別れようと思ったんですけど、付き合いも長いので簡単には決められなくて…。」
そう言った女性の周囲を注意深く観察すると、青黒いオーラが薄く視えた。なるほど。別れなきゃと頭では分かってるけど踏ん切りがつかないから背中を押してほしいってパターンね。
占い師をやるにあたって、マイルールとして決めている事がある。それは…黒いオーラ、ダメ絶対!今まで二十数年生きてきて、黒いオーラを漂わせてる人は皆、碌なことにならない。そんな経験則から決めたルールだ。だからその原因となるものを排除するよう、できうる限りの方法で誘導することにしている。
…ぶっちゃけ占いとか未来視なんて全くできないから。私にできるのはその程度の手伝いだけ。それでもなぜか口コミが良いので、世の中そんなもんなんだろう。
「それではまず、あなたと彼氏さんの相性を占ってみましょう。」
私は水晶玉玉に手をかけると、水晶を覗き込むように顔を傾けた。それにつられて、女性も水晶を真剣な表情で覗き込む。
―今だっ!そしてタイミングを見計らい、魔法で指先に光を灯した。この水晶の内部には特殊な細工が施してあるため、光は乱反射して神々しく光り輝いて見える。
その光景に女性は目を見開き、何がおこっているか理解できない様子だ。これは私の言葉に説得力を持たせるマル秘テクニックその①。それ以外だとタロットカードに細工したり、水鏡を魔法で揺らしてみたり何種類かあるが…それは追々紹介しようか。
「見えました。誠に言いにくいのですが…あなたと彼氏さんの相性は大変悪く、これまでお付き合いが続いている事が奇跡のようです。」
十分に時間をかけて占ったフリをした後、できる限り残念そうな口調で口を開いた。
「…え、えぇ。はい。」
女性の方はと言うと、今見た光景が忘れられないようで何となくボーっとしている。
「このままお付き合いを継続したとしても、良くない未来が訪れるでしょう。」
「そんなことまで分かるんですね。良くない未来って言うのは一体どんな…?」
「申し訳ありませんが、それをお伝えすると未来に悪影響が出てしまう可能性があるため、私の口からお伝えすることはできません。」
まぁ、これは嘘だけど…。未来なんてこれっぽっちも見えてないから、それっぽく誤魔化すための常套句。
「そうですか…そしたら……」
―――――
その後、女性からいくつかの質問があり、当たり障りなく答えたところで終了のアラームが鳴った。女性は占い料の5千円を払うと、どことなくスッキリした表情でお店を後にした。これで彼氏と別れる踏ん切りがついたら良いな。
そう思いながら私も占いスペースの片付けをし、消灯、施錠を入念に確認してから家路につくのだった。
副業の占い師は不定期営業で、平均して月5万円程度の収入になっている。ただのOLの私にとっては貴重な収入源だ。