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第五話 冬の村にて

「これからよろしく。結丸けつまる! 義翔ぎしょう


「ききっ! あんなこと聞いたらしかたねえぜ! 付き合ってやらあ!」


「さっさと『鬼』退治を終わらせて、すぐ帰るんだよ!」


 秋の村の村長の話を聞いて、四人になった僕たちは、冬の村へ向かっていた。


 村長の話によると、冬の村は、秋の村から遠く離れた山岡山脈やまおかさんみゃくの上にあるらしい。


 『鬼』退治という目的のため、僕らは様々な場所を進んでいった。


 歩くたびに足が沈んでいってしまう沼の道、足袋を貫通して足の裏が焼けてしまいそうになった流砂りゅうさの道、硫黄いおうの匂いが漂ってくるごつごつとした温泉地帯、大きな虫が絶え間なくあらわれる森林地帯。


 その他にもたくさんの景色を通り過ぎていった。


 そんな旅の道中、僕たちは圧倒的だった。

 十数じゅうすうの『鬼』と戦ってきたが、どの『鬼』もあっさりと退治できたのだ。


 炎を操る『鬼』、風の刃を飛ばす『鬼』、酸性の泥をまとう『鬼』。

 様々な『鬼』が現れた。

 けれども、どの鬼にも苦戦することはなかった。


 園次郎えんじろう嗅覚きゅうかくと素早さで『鬼』を翻弄し、結丸の判断力と狡猾こうかつさで『鬼』を追い込み、義翔が飛翔し上空から『鬼』に手傷を負わせ、僕が怪力で仕留める。

 多少の違いはあったが、このやりかたでほとんどの『鬼』を退治することができたのだった。



 ******



「みんな頼もしいよ! こんなに順調に進めるなんて思ってもみなかった」


 ある夜、僕らは、山岡山脈の近くの野原で、焚き火をして休んでいた。


「ききっ。お前もなかなかだぜ。桃太郎。こんなに頑丈がんじょうなやつ始めて見た」


「そうだよ。危ねえなって思った攻撃も、全部受け止めちまう」


 結丸と義翔の賞賛しょうさんは、僕のお腹のあたりをむずがゆくしたけれど、とても嬉しい言葉だった。


「桃太郎! 久しぶりにきびだんごが食べたいぞ! わん!」


「そうだね。ちょっと待って。すぐ作るから」


 そう言って、僕は秋の村で仕入れたきびだんごの材料を取り出す。

 おばあちゃんに教わった秘伝の調理法で、材料たちをこね始める。


「本当は一晩おいた方が、味が馴染なじむんだけど。はい、どうぞ」


 僕が笹の葉の上に乗せたきびだんごを、結丸と義翔はいぶかしげな目で見ていた。


「ききっ? なんだそれ?」


「何だか分からないけど、よだれが止まらないよ! 何か危ないものでも入ってるんじゃないかい?」


「……食ってみろ。飛ぶぞ。わん」


 園次郎のその言葉を皮切りに、三人はきびだんごに飛びつく。


「わおーん!」


「ききっ!? きーきーきーっ!?」


 園次郎は遠吠えし、結丸は取り乱しながら叫ぶ。


「け——ん!? ず、ず——」


「ず?」


「ずるいよ! 二人ともこんなうまいもん食ってたのか!? もっと早く食わせろよ!」


 義翔のその言葉は、僕にとっては最大の賛辞さんじであった。

 その後、事あるごとに、三人はきびだんごを要求し、僕は毎晩のようにきびだんごの仕込みを行う羽目になるのは、また別のお話である。



 ******



 長く険しい山道を越え、僕たち四人は、やっとの思いで、冬の村へとたどり着いた。


 太陽がまだまだ活発に光を放出している時間帯にも関わらず、見渡す限りの白、雪の積もる幻想的げんそうてきな町だった。


 家屋かおくの屋根や木々の枝に積もった雪が、太陽の光を反射してキラキラと輝いている。

 町の中心に位置する神社は、真っ白な雪に覆われているからだろうか、どこか神秘的で神々《こうごう》しさをかもし出していた。


 春の村と同じくらい小さな町ではあるが、大きな三角形の屋根がある家が十軒ほど建っている。

 雪を落としやすくするためだろうか、大きな三角形の屋根の角度はとても急である。


 しかし、僕らは全員混乱してしまった。


 神社へと向かう階段の下の野原、今は雪が積もっているので雪原せつげんと呼ぶのかもしれないが、そこに雪だるまがいくばくか鎮座ちんざしていたのである。

 それどころか、現在進行形で子供たちが、楽しそうに雪だるまを作っている。


 子供たちだけではない。

 村の中では大人たちが、井戸端いどばた会議や商売、雪かきなどにいそしんでいた。


「……? この村は『鬼』に支配されているはずじゃ……?」


「秋の村の村長はそう言ってたぞ! わん!」


「ききっ! 村長を疑うわけじゃねえぜ。けどよ……。ぱっと見た限り、平和な村に見えるな」


「もしかしたら、もう支配は終わったのかね?」


 様々な考えをめぐらせ、困惑して村の入り口に立ちつくしていた僕たちに、まき売りだろうか、薪がぎゅうぎゅうに詰まった大きなかごを背負った少年が話しかけてきた。


「うわー! 珍しい! 旅人さんかい? こんな何もない村によく来たねえ。まあ、観光するようなものは何もないけどゆっくりしていってよ」


 少年は幸せそうに笑っている。


 とてもじゃないが、その少年は『鬼』によって支配されている村の住人には見えなかった。


 僕は戸惑とまどいながらも、少年に問いかける。


「えっと、僕たちはこの村に『秘宝ひほう』があると聞いて、それを見に来たんだ。なにか知っていることがあれば教えてくれないかな」


 まだ『鬼』がいないと決まったわけじゃない。

 僕は最低限の情報で質問する。


「『秘宝』? 聞いたことないなあ。何か探しものならおばばを訪ねなよ。それに山道を歩いて疲れているだろう? あそこは宿屋だから、休むのにもちょうどいいよ」


 そう言って、少年は村で一番大きな家を指差す。


「ありがとう。行ってみるよ」


「ああ。ゆっくりしていってよ。それじゃあね」


 少年は満面の笑みを浮かべて去っていく。

 僕たちは少年の提案に従って、とりあえず宿屋に向かうことにした。



 ******



 宿屋に着いた僕らは、少年がおばばと呼んだ老婆ろうばに、話を聞くことにした。


「聞いたことないねえ。『秘宝』だなんて」


「何でもいいんです。この村に武器のようなものはありますか?」


「うーん……。そう言われてもねえ」


 腕を組んで思考をめぐらす老婆に、僕は少しでも情報を得ようと食い下がる。


 しかし、老婆からはこれといった情報は聞き出せなかった。


 その後、宿屋に荷物を置いて村中を散策し、僕たちは、四人に分かれ情報を求めて聞き込みを行ったが、めぼしい結果は得られなかった。


「くーん。この村からは『鬼』の匂いは感じなかったぞ! わん!」


「そうだね。僕も気配を感じられなかったな。とりあえず、今日は休もうか」


「ききっ。賛成だぜ。また明日時間を変えて探してみようぜ」


「もう体がくたくただよ」


 僕が疲労ひろうを感じているように、三人も疲れが顔に表れていた。


 宿屋の美味しい料理を食べ、気持ちのいい温泉に浸かり、ちょうどいい眠気が僕たちをおそったところで、四人はそれぞれの布団に包まれて、休息の準備を整えた。


 そこから先、園次郎の鼻息のようないびきが聞こえ始めたところで、僕の記憶は途絶とだえてしまった。



「——おい。おい。おい! 起きろよ! 桃太郎」


 どこからか、義翔の声が聞こえて来る。


「うーん……? どうしたの? まだ暗いじゃないか……」


 僕が重たいまぶたをこすりながら、あたりを見回すと、義翔が声量せいりょうを抑えながらも叫ぶ。


「人の気配が消えてんだ! 結丸と園次郎は、先に外に偵察ていさつに向かったよ!」


「えっ……!?」


 そう言われてみれば、小さな窓が開いていて、二人が寝ていた場所に誰もいない。


「……秋の村みたいに、『鬼』が出てみんな隠れているとか?」


「それならいいんだけどよ。とにかくあたいたちも外に出よう」


 義翔が翼を広げ、勢い良く飛び立っていく。

 僕は慌てて跳び上がり、廊下ろうかを駆け抜け、義翔についていく。


 宿屋の大きな玄関口げんかんぐちにたどり着き、義翔が戸をめいっぱい開くと、あたりは闇に包まれていた。


「……これは」


「何も見えないよ……」


 歩き出そうと、一歩踏み出して気づく。

 足の裏の感覚で、積もっていた雪が溶けていない事がわかる。

 真っ白な雪すら認識できていない。

 ここから歩いて行くのは無謀だ。


「園次郎なら鼻を使って、僕たちはここにいる事がわかるはず」


無闇むやみに動かないほうが良さそうだね……」


「そうだね。少し待機していようか」


 玄関口に背を預け、僕たちは黙って二人を待つことにした。



 ——半刻はんこく程経過しだろうか、遠くの方から園次郎の声が聞こえてきた。

 うとうとし始めていた僕の意識が、一気に叩き起こされる。


「三時の方向からだよい!」


「危ないから建物に触れながら、転ばないように急ごう!」


 羽を大きく広げて、全力で飛び立とうとしている気配の義翔をたしなめる。


 ぎゅっ、ぎゅっと鳴る雪を踏みしめながら、僕たちは早歩きを始めた。


 だんだんと鳴き声が近くなってくる。


「くーん……。当たらないぞ……。わん……」


「ききっ! バカ犬! 村長の話を覚えてねえのか!」


 園次郎の弱気な声と、結丸の乱暴な怒声どせいが聞こえて来た。


「二人とも! 状況は!?」


「ききっ! 【暗鬼あんき】だ!」


 結丸の簡潔な言葉に、秋の村の村長の言葉を思い出す。


「——【暗鬼】はその名の通り、くらがりを操ります。具体的には、暗闇以外何も視界に入らなくなるのです。視界が真っ黒になるのです。我々の目では、あの『鬼』を捉えることはできませぬ。決して、夜や日陰で戦ってはいけませんぞ。必ず明るいところを探して、戦ってくだされ——」


 ——手遅れだ。


「義翔! 上から【暗鬼】は確認できるかい!?」


「やってみるよ! け————ん!!」


 義翔が大きな音をたて、僕は、びゅんっ、と力強い風を感じる。


「村全体が覆われてやがるよ! 屋根の上も! 神社の階段のとこまで真っ暗だ!」


 飛び立ってしばらくして、義翔の焦ったような声が聞こえてくる。


 焦ってもどうしようもない。

 僕は深く呼吸をして、ばくばくとうるさい心臓を落ち着かせようと試みる。

 額にじっとりと流れ出る冷や汗を手で拭っていると、隣に足音がやってくる。


「桃太郎! どうする!? わおん!」


 園次郎の声に僕は少し落ち着きを取り戻す。


「園次郎には【暗鬼】の場所は分かるのかい?」


「ああ! わかるぞ! 匂いがぷんぷんしてるぞ! でもすごくすばしっこいぞ! わん!」


「ききっ! それでも何も当たらねえ! 暗闇を造り出すだけじゃなく、闇の中を自在に動いてるくせえぜ!」


「……それでも、園次郎の鼻に頼るしかない。結丸は今、園次郎の背中に乗っているのかい?」


「ききっ!」


 短い鳴き声は肯定こうていの意であると、僕は受け取る。


「わかった。義翔! 上から見張りを続けていてくれ!」


「けん!」


 義翔も短い鳴き声をくれる。


「方向は合っているはず、まっすぐ走ろう。とりあえずこの暗闇から脱出しないと。園次郎。【暗鬼】が近づいてきたら教えてくれるかい?」


「わん!」


「……よし。いこう!」


 だん!


 地面を踏みしめ、力強く走る。

 ぎゅっ、ぎゅっという音で、園次郎も走っていることがわかる。


 何も見えない中で走るという行為は、思っていた何倍も恐怖を味わう体験だった。


(怖い……。でも——)


 止まってはいけない。

 今、立ち止まったら一歩も歩けなくなる気がする。

 必死に腕を振り、太ももを上げる。


 走り始めて、四半刻しはんどきは経っただろうか。

 実際にはもっと短いかもしれない、もっと長いかもしれない。


 どちらにせよ、やっと僕の視界に光が差し込んだ。


「やった——」


「けんっ!?」


 義翔の声とともに、羽が落ちてくる。


「きっ……」


「わんっ……」


 隣から短い声が二つ聞こえる。


「がっ……」


 背中に何かがぶつかったような、鈍い痛みが走る。


 痛みの原因を確かめる前に、再び視界は黒に染まる。


 どんっ! どっ! どんっ!


 背中だけではなく全身から鈍い痛みを感じた後、僕の意識は段々と薄くなっていき、耐えきれなくなる。


(ああ……。ちくしょう——)


 悔しいと感じた記憶を最後に、僕の意識は暗闇くらやみへとちていった。



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