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第四話 猿と雉との出会い

 僕たちは、あまりの出来事に呆然と立ち尽くし、ぼーっと猿や雉を眺めていた。

 一呼吸した後、僕はゆっくりと口を開く。


「……あれは、猿と雉だよね。ということは、あの子たちも『妖力』の影響を受けた動物ってことかな」


「間違いないぞ! わん!」


 園次郎が僕の推測に同意してくれる。


「ききっ! 何だお前ら! 怪しい奴め!」


「…………」


 猿が僕たちに気づき、少々離れたところから、威嚇するように話しかけてきた。

 雉はいつでも飛び掛かれるようにしているのだろうか、木の上で黙っている。


「ぼ、僕は桃太郎! こっちは園次郎! 怪しいものではないよ!」


 僕は大声で釈明する。


「僕らは『鬼』退治のために旅をしているんだ! 『鬼』や『鬼ヶ島』の情報を求めてこの村に訪れた! この場所には、爆発音が聞こえたから走ってきたんだ!」


 僕は今の状況の理由を必死に叫ぶ。


「ききっ! 何だ、そうだったのか!」


 猿は警戒を解いてくれたのか、楽な姿勢をとった。


「まったく。簡単に信じすぎだよ、結丸けつまる。」


 雉がやれやれといった様子で木から飛び降りてきた。


「ききっ! だってよー、義翔ぎしょう。人間の方、体はでかいけど『鬼』には見えないぜ! もう一方は犬だしな」


「まあ、あたいもそう思うけどさ」


 猿と雉の会話の様子から、彼らの名前と、こちらへの警戒を解いてくれたことを確認できた。


「おい! お前ら! 『鬼』について知りたいならついて来な!」


 義翔はそう言って、村の方へ飛んでいく。


「ききっ! ついてこい!」


 結丸も同じ言葉を繰り返し、四本足で器用に走って行った。



 ******



 村の中央にたどり着いた僕たちは、二本の大木の前で立ち止まっていた。

 結丸と義翔がその場所に着くなり、歩みを止めたからである。


 結丸がカエデの木に登っていき、義翔はイチョウの木に向かって飛んでいった。

 二匹はそれぞれの木の頂上にたどり着き、どこからか小さな鐘を取り出した。


「ききっ」


「けーん」


 お互いを確認して、うなずきあう。

 結丸は赤い鐘を、義翔は黄色い鐘を優しく振った。


 ちりん。ちりん。ちりーん。


 二匹の振った鐘が神秘的な音色を奏でる。

 僕はしばらく目をつぶってその音色を楽しんでいた。


 ——ごごご……。


 音が鳴り止んでしばらくして、大木の間の地面が盛り上がり、割れた。


 隠し扉である。

 中からたくさんの人が顔を覗かせている。


 僕と一番先頭にいたおじいさんの目があう。


「おや? あなたは……」


 僕はそのおじいさんを見て、なぜか強烈きょうれつな懐かしさを感じていた。



 ******



「ききっ! 村長! こいつらが『鬼』の話を聞きたいらしいぜ!」


「たぶん害はないやつらだよ。村長」


「ほほっ。そうですか、ではこちらへどうぞ。私の家でゆっくり話しましょう」


 ——というやりとりがあって、僕と園次郎は、二匹の紹介で秋の村の村長の家に招かれていた。


「お邪魔します」


「お邪魔するぞ! わん!」


「ほっほっほ。礼儀正しいですな。適当に座ってくだされ」


 村長さんの勧めに従い、僕たちは椅子に座って話し始めた。


「はじめまして。僕は桃太郎。こっちは園次郎です。『鬼』退治のために旅をしています」


「わん!」


 僕の自己紹介に、園次郎が声で存在感を示す。


「そうですか、そうですか。元気があって良いですねえ」


 村長さんは嬉しそうに頷いていた。


「僕らは『鬼』の情報が欲しくてこの村を訪れました。不躾ぶしつけで申し訳ありません。話を聞かせていただけないでしょうか」


 僕はできるだけ丁寧ていねいにお願いする。


「ええ、構いませんよ。けれども、長い話になります。結丸、義翔。お茶を持ってきてもらってもいいかな」


「ききっ!」

「けん!」


 結丸と義翔は、短い返事を残し、奥へと消えていった。


「さて……、何から話しましょうか……。……では、まず、あなたがたが向かうべき場所をお伝えしましょうか」


 村長がゆっくりと語り始める。


「場所? わん?」


「ええ、場所です。園次郎くん。お二方には、冬の村へと向かって欲しいのです」


「冬の村……ですか?」


 僕は聞いたことのない村の名前を口にだして確認する。


「ええ、冬の村です。その名の通り、一年間ずっと厳しい寒さが続く町です。そこに『四天してんおに』の一体がおります」


 村長の顔から柔らかな表情が消える。


「……『四天の鬼』」


 つられて、僕の声も重たくなる。


「『四天の鬼』は始まりの四鬼です。『上級鬼じょうきゅうき』の中でも別格の強さを誇っています。その中の一体が、冬の村を支配しておるのです。名を——【暗鬼あんき】……。四天してん副将ふくしょうの『鬼』でございます」


「副将ってことは、二番目に強いってことなのか? わん?」


 村長の言葉に、園次郎が疑問をなげかけた。


「その通り。賢いですね。【暗鬼】は、四天の大将——『鬼』の頭領とうりょうぐ強さを誇っている『鬼』なのです。そんな『鬼』が冬の村を支配しているのには理由がございます。冬の村には『鬼』を倒すために作られた『秘宝ひほう』と呼ばれる武器があるからです」


「『秘宝』……?」


 村長が再び聞きなれない言葉を使う。


「ええ。遥か昔のことです。『鬼』を調べ尽くした賢人けんじんと凄まじい腕を持った鍛治職人かじしょくにんがおりました。その二人が協力して作り上げた武器、それが『秘宝』なのです。ですが、残念ながら、その時代には、『秘宝』を扱うことのできる強者きょうしゃがおりませんでした」


 村長はどこか昔を懐かしむように語っている。


「なるほどな! でもなんで、【暗鬼】って奴は、そんな武器をわざわざ壊さずに冬の村に置いてあるんだ? わん!」


 園次郎は当然の疑問を口にする。


「いい質問ですね。『秘宝』は、壊さないのではなく、壊せないのですよ。『鬼』に悪用されないように、賢人が細工さいくほどこしたのです。『鬼』が『秘宝』に触ると大きな痛みを感じるように。はからずともそれは、『鬼』に対して大きな効果を持ち、武器としての性能を大きく向上させました」


「よくできていますね」


 村長の言葉に納得し、僕は感心する。


「ええ……。本当に」


 村長はどこか嬉しそうだ。


「情報ありがとうございました! さっそく冬の村へと向かってみます!」


「わん!」


「お待ちください。お二方」


 僕と園次郎が立ち上がろうとするのを、村長が言葉で制止する。


「実は、あの二人も、結丸と義翔も連れて行って欲しいのです」


 村長がはっきりとした口調で、予想外の提案をした。


「ききっ!? 熱っちい!」


「けん!? な、何言ってんだよ! 村長!」


 お茶を持ってきた結丸がお茶をこぼし、義翔は血相けっそうを変えて叫ぶ。


「……まあ、二人も座りなさい。話を続けます」


「ききっ! そ、そんなことより説明してくれよ」


「そうだよ! 何であたいたちが、こいつらと行かなきゃならないんだよ!」


 村長の提案に、二人は憤慨ふんがいしているようだった。


「とりあえず最後まで話をさせておくれ。二人とも」


「きっ……」

「けん……」


 村長の言葉に、二人は、元気のない返事をする。


「それでは続けますね。『鬼ヶ島』にいる『四天の鬼』大将——【豪鬼ごうき】。その【豪鬼】を倒せば、新たに『鬼』は出現しなくなります」


「「「「……っ!?」」」」


 僕ら四人は声にならない声をあげる。


「【豪鬼】は最古さいこの『鬼』です。【豪鬼】が生まれたことで、『妖力』という不可思議な力がこの世にあふれ出したのです。【豪鬼】を倒せば、この世から『妖力』は失われます」


「ほ、本当ですか?」


 僕は思わず尋ねてしまう。


「ええ。本当ですとも。我々も『鬼』には、頭を悩まされる毎日です。結丸と義翔は強い。そこいらの侍よりも圧倒的に強いです」


「わん! それはあの戦闘を見て分かったぞ!」


 園次郎が叫ぶ。


「……当たり前だよ」


 園次郎の言葉に、義翔は少し照れているようだ。


「だから、二人にはお二方について行って欲しいのだ。二人は子猿と小鳥の頃から私と一緒にいてくれた。この村を守ってくれた。だが、いつまでもこの村にしばっているわけにはいかない」


 村長の表情からは、穏やかではあるが、どこか底知れない覚悟を感じる。


「僕たちはありがたいですけど」


 僕はまだ困惑している。


「ききっ! そんなことないぜ! 村長! おいらたちはずっとこの村を守り続けるぜ!」


「そうだよい! この村の用心棒として、一生この村にいるよい!」


 二人も全く納得していないようだった。


「だけど、二人とも家族のかたきを討ちたいだろう? それに私も、おそらく、もうそう長くは生きられない」


「「…………」」


 村長の言葉に、二人は、口を閉ざしてしまった。


「……これは方便ほうべんですね。ただ、私が【豪鬼】を倒して欲しいのです」


 少し時間をおいて、村長が話を再開する。


「……何故ですか?」


「あなたが『秘宝』を扱える強者だからですよ。桃太郎君」


「僕が……?」


 寝耳に水である。突然の発言に僕は驚かされた。


「ええ。あなたなら『秘宝』を使いこなせるはずです。『鬼』にはさわれない、けれど人にはあつかえない『秘宝』を。『鬼』の血を引くあなたなら」


「わん!? 桃太郎は『鬼』じゃねえぞ! わん!」


 園次郎がかばってくれる。


「…………」


 だが、こちらの話には少し心当たりがあった。


「分かっていますよ。『鬼』は凶暴な生き物です。『妖力』の影響を受けすぎてしまった人間の成れの果てですから。しかし、ごくまれに理性を強く残した『鬼』が出現します。その『鬼』と人が交わって生まれるのが『混血こんけつ』、中にはもどきと呼ぶ『鬼』もいますね」


 村長は淡々《たんたん》と語ってくれる。


「……僕は、僕のこの怪力が怖かったんです。僕は『鬼』かもしれない、と思っていました。ありがとうございます。答えをくれて。でもなぜ、僕が『混血』だと分かったんですか?」


 僕は素直に、村長に感謝と疑問点を伝えた。


「私も同じだからですよ」


「えっ」


 今日、何度目だろう。

 僕はまた驚かされてしまう。


「『混血』の数は少ない。それに、『鬼』のような力はない、はずですが、あなたは違います。あなたからは、あふれんばかりの活力かつりょくを感じます。ですから、きっと、『秘宝』を扱えるはずです。どうか、この村のため、いいえ、この国のすべての人間のために【豪鬼】を退治してくださりませんか」


 村長の眼差しは真剣だ。


「……村長さん、あなたは一体何者なんですか? なぜそこまで知っているんですか?」


 僕は村長に問いかける。


「……。……私は昔、『鬼ヶ島』に住んでいました」


 ややあって、村長が口を開く。


「「「「!?」」」」


 四人が一斉いっせいに目を見開く。


「私は昔、【豪鬼】の付き人だったのです。ですが、逃げ出しました。逃がしてくれたのです。【豪鬼】が」


「【豪鬼】が……?」


 村長の振り絞るような声に、僕は反応する。


「【豪鬼】は誰かに倒されたがっていました。退屈たいくつだ、と。毎日のように言っていました。ですが、結局、誰も【豪鬼】に勝てなかった」


 村長は、決して大きくはないが、迫力はくりょくのある声で語った。


「どうか【豪鬼】を——我が父を終わらせてやってください」


 村長の目からは、大粒の水滴が流れ出していた。

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