第44話 勝ったな
第二ラウンドが始まり、私はすぐにギルマスに声をかけた。
「ギルマス! 来ますよ! 次弾の準備をお願いします」
私の言葉に少し呆けていたギルマスだったが、すぐに気を取り戻した。
「あ、ああ! 冒険者達よ! 怯むな! 爆弾の準備をするんだ!」
冒険者たちも固まって空を見上げていたけど、ギルマスの言葉に、ゴブリンを迎え撃つ用意をする。
「ギルマス! まずは雑魚ゴブリン達を! 四天王とボスは放置でいいです!」
どうせ届かないし、聞いた限りだと、ダメージは与えられないはず。
「了解した! まずはゴブリンの群れを倒せ! 爆弾を投げろ!」
冒険者達が、次々と爆弾を投げる。
まずは、前衛にいる、通常の雑魚ゴブリンを。
「盾持ちは味方を守れ! 遠距離攻撃をする敵がいるぞ!」
おっ! さすがギルマス、遠距離攻撃持ちの存在に気がついたみたいだ。
遠距離攻撃は、アーチャーとマジシャンがいるはず。
どっちも2個投げれば倒せるはずだ。
だけど、爆弾の狙いがつけられる範囲にはいない。
盾を持った数人の冒険者が前に出て、飛んでくる矢や魔法から味方を守る。
『おおっ! 戦い始まった!』
『戦いはずっと前から始まっていたが?』
『いや、それはわかるが、爆弾投げるだけで終わったのは戦い? なのか?』
『数と固定ダメージの暴力は戦いと言っていいのか?』
『それ言うたら、今もやってること同じやろ』
『武器取り出すだけで、戦闘っぽくなる不思議』
一応、爆弾も武器……ではないか。
私も弓を構えて、敵の後衛に向かって撃つ。
幸いにも、敵の攻撃は私までは届かないらしく、一方的に撃てる。
本職じゃないからダメージは弱いけど、数撃ち戦法だ。
『アリスちゃんの弓もえげつねぇ』
『単純にかっけぇ』
『ちゃんと後衛狙ってるの偉い、というか当てるの凄くね?』
『DEXが相当あるならわかるけど、錬金術師だし、弓スキルも無い中でこの距離を当てるのはやばい』
『なお、ダメージ……』
しばらく撃っていると、ようやくゴブリンを倒し終えた。
「少しガタイのでかい、盾と斧持ちがいるぞ! 気をつけろ!」
次の目標は、ゴブリンファイターだ。
ギルマスの言葉通り、通常ゴブリンよりも身体が大きく、盾と斧を持っている。
その装備どこから取り出したと突っ込みたくなるが、どうやら進化と同時に出てきたものらしい。
「距離を空けろ! 絶対に敵からの攻撃を通すな!」
冒険者達のレベルは低い。
事前にギルマスに聞いていた平均値は驚愕のレベル10。
私より低いとは思わなかったよ……
加えて、旅人よりも全体的にステータスが低いらしく、タンク以外がファイターの攻撃を受けると、致命的になりかねない。
だけど、前衛のタンクがそれをなんとか押し留め、後ろから爆弾を投げることによって、対処ができている。
「アリス! ボスが動いたぞ!」
ギルマスの言葉に、ボスを見ると、先程まで戦いを眺めていたのがゆっくりとこちらに向かってきていた。
余裕すら感じる歩み、まるでこっちの戦力がわかっているかのようだ。
「他のゴブリンが優先です! 私が撃って足止めします!」
ボスに向かって弓を撃つ、ボスであるゴブリンキャプテンは飛んできた矢を剣で払い落とす。
それでも構わない、ひたすら連射だ。
今は皆が他を潰せるだけの時間を稼ぐ。
あるだけの矢をひたすら、ゴブリンキャプテンに向かって撃つ。
苦々しそうに、こちらを見るのが見える。
『ちゃんと足を止めてるのな』
『俺らの時は、割りとダメージ無視してたような?』
『そりゃHPが違うからだろ。アリスちゃん一人だからキャプテンのHPもかなり下がってるはず』
『なるほど』
『それもあるが、アリスちゃんの弓が急所に飛んでるのがでかいと思う。防がなきゃクリティカルだ』
『言われて気が付いた、目と心臓と足と。動いてるのに良くあれだけ連続で当てられるな』
ゴーロックを一人で倒したのに比べたらまだ余裕だ。
ただ、集中する時間が長いと、少しずつ精度も落ちていく。
外す数も段々増え、その度に、キャプテンがこちらに向かって進んでくる。
「盾持ちを倒したぞ! 残りは遠距離持ちとボスだけだ!」
ようやく、希望の言葉がギルマスから聞こえた。
どうやら、ゴブリンファイターを倒しきったようだ。
『いける! いけるぞ!』
『頑張れ!』
『遠距離持ちは、HP低いから爆弾2発でいける!』
『投げろ! 投げろ!』
投げろ! 投げろ!
そう祈りながら、キャプテンを撃ち続ける。
「遠距離持ちを倒したぞ! 残りはボスだ!」
矢を撃つ手を止め、戦場を見ると、あれだけいたゴブリン軍団がボスだけになっていた。
どのくらい撃ってたかはわからないけど、そんなに時間は経ってないはず。
だけど、疲労度が凄い、集中しすぎたみたいだ。
でも、ここで休むわけにはいかない。
「残りの爆弾を全部!」
私の声に、ギルマスが即座に反応する。
「ありったけをボスに投げろ! 倒すぞ!」
ボスを狙って、最後に残っていた爆弾を全部投げる。
次々とボスに当たり、爆炎を巻き上げる。
「数は足りてるはず……」
つまり、
『勝ったな』
『風呂入ってくる』
『うぉおおおお!! やったぞぉおおおおお!!』
『ほぼ爆弾で封殺したな、この戦法強すぎでは?』
『そんだけ数用意するのが大変だけどな、まぁ、今じゃHP的には通じないだろうけど』
『錬金術師が高レベルになれば、また固定ダメージアイテム増えるかも? そうなれば強そう』
『固定ダメージと数の暴力がやばいことはよくわかった』
完全に倒したムードだね。
聞いてた数で用意した爆弾だから、大丈夫だろうけど。
爆風が止むのを待つ。
これで、戦闘は終わり……のはずだったんだけど。
「……えっ?」
爆炎が散ったのを確認して、近づこうとした冒険者のタンクが一人、こちらに向かって吹き飛ばされた。
砂埃が消え去ったそこには、ボスであるゴブリンキャプテンがこちらを睨むように立っていた。




