第40話 夕食を頑張る
「なるほど、やりたいことは理解した」
「ちょっと非現実的かなぁとは思うけど、目の前にある以上、何も言えないわね」
気を取り戻した二人は、爆弾を見つつ、私のやりたいことを了承してくれた。
「ふむ、この作戦さえうまく行けば時間稼ぎだけでなく、我々だけでもゴブリンを討伐しきれるかもしれんな」
「そうよね、ゴブリン一匹を倒せるだけの爆弾がこれほどあるんだもの」
「それで、冒険者の方々には、お手伝いしてほしいんですけど」
これだけの爆弾を私一人で投げていくのは時間的に無理だろう。
経験値的にはちょっともったいない気がするけど、これは誰かに渡して使ってもらったほうがいい。
「ああ、冒険者たちには私から説明しよう、断るやつはいない」
冒険者さんたちにとっても自分で戦うよりは爆弾投げたほうがよっぽど楽だからね。
これで、投げるための人員は確保できた。
「うーん、爆弾くらいだったら、私たちでも投げられそうだけど」
悩むようにするリーズさん。
私みたいな錬金術師でも投げれるんだから、それも可能だろう。
でも、
「ひとまずは、冒険者さんたちだけで大丈夫ではないでしょうか?」
万が一のこともある。
非戦闘員は戦場には出さない方がいいだろう。
まぁ、私は出るつもりだけどね。
「うーん、でも、何もできないのは……、あ! そうだ!」
リーズさんは何か思いついたように、私の手を取った。
「アリスちゃんに特別な装備をあげるわ! うちの人に作らせるわよ!」
装備? そういえば、前にローブを買って以来だね。
杖に関しては、ずっと前のままだ。
まぁ、今は弓を主に使っているけど。
「それに、この爆弾のお金もちゃんと払うわよ」
「それはこちらも払う。出来上がったものを冒険者ギルドで買い取る形にしようかと思っていたのだが」
あー、そっか、現状だと私の持ち物になってるから、タダ働きになっちゃうのか。
私としては、自分の身と街が守れればそれでいいんだけど、こういうところは気をつけないといけないところだね。
「それから、この作戦が成功したら、アリスには特別報奨を約束しておく」
「そうね、商業ギルドからも約束するわ」
おっと、予想外の収入もありそうだ。
まぁ、全ては成功してからになるけど、後に楽しみが増えるって思っておこう。
残りの分を、明日中に納品することを約束して、私は冒険者ギルドを後にした。
「そうだ、アリスちゃん、うちに来ない?」
同じように帰るリーズさんと一緒に外に出ると、お家に誘われてしまった。
「ロナも会いたそうにしていたし、うちで夕飯でもどうかしら?」
うーん、確かに、うちに帰っても自分で作って食べるだけだし。
「はい、いいですよ」
というわけで、急遽リーズさんのお家にお邪魔することになった。
……この時、私は忘れていた。
ロナさんが、私が普通に作った料理をすごく美味しそうに食べていたことを……
「さぁ、どうぞ」
「お邪魔します」
ロナさんのお家は、鍛冶屋の隣にあった。
つまり、私の家からもご近所さんだ。
リーズさんに続いて若干キョロキョロしながら、ついていくと、ダイニングに案内された。
「適当に座ってちょうだい。すぐに二人も帰ってくるから、待っててね」
私をテーブル座るように促したあと、リーズさんは奥に向かう。
間取り的にあっちはキッチンかな?
そういえば、ずっと自分で作ってたから人の料理を食べるのって凄い久しぶりな気がする。
しかし、結構大きい家だなぁ。
さすが、商業ギルドマスターと鍛冶屋の親方さんのお家という感じ。
ちょっと落ち着かない。
こういう時に、視聴者さんとお話できればいいんだけど、残念ながらもう時間切れで放送は切れている。
キョロキョロとしていると、玄関の方から音がした。
「今、帰ったぞー!」
「……」
声は、一人分だけど、足音は二人分だ。
ダッズさんとロナさんだろう。
「うん? 客か?」
「……アリス?」
二人がダイニングに入ってきて私を見つける。
「こんばんは、リーズさんにお夕食に誘われました」
「ああ、ロナの友人で錬金術師の嬢ちゃんか、ゆっくりしていき」
ダッズさんは笑うと、キッチンへと向かった。
「……アリス」
そして、何故かロナさんは、私の方を見つめたまま固まっている。
「ロナさん? どうかしました?」
視線からちょっと異様な雰囲気を感じるんだけど?
私何かしたかな?
「夕食……、頑張って」
そう言って、ロナさんもダッズさんの後についていった。
……夕食を頑張るって何?
もしかして、リーズさんって料理……
嫌な予感がしながらも待って、やがてダッズさんとロナさんが食卓についた。
リーズさんも料理を持ってきた。
「今日はシチューよ」
そう言って、リーズさんがテーブルに置いたのは、なんの変哲もない深皿に入ったシチューだ。
具材は、人参、じゃがいもといったオーソドックスな野菜と、肉が入っている。
「いい鶏肉があったのよ」
鶏肉か、私もシチューは鶏肉派だ。
なんだ、ロナさんが変なこと言うから、びっくりしたよ。
普通じゃないか。
「それじゃあ、いただきます」
「「「いただきます」」」
リーズさんに続いて、唱和した後に、スプーンですくう。
ちらっと、リーズさんを見ると、何事もないように口に運んでいる。
ダッズさん、ロナさんも同様だ。
私も、同じように口に運び。
「……アリス」
「はっ?」
ロナさんに声をかけられて、気が付いた。
「大丈夫?」
えっと、ここは? あれ? 外?
「ロナさん? えっと?」
私いつの間に外に出たんだろう?
「アリスは、母の料理を食べておかしくなった」
料理……、うっ、頭が痛い。
確かに、シチューを食べてからここまでの記憶がない。
「だから、頑張ってって言ったのに」
「……まさか料理で気を失うとは思わなかったですよ」
「一応、受け答えはできてた」
「えっ?」
全く記憶が無いんだけど?
「でも目に光がなくなってた」
目に光がなくなる料理っていったい……
詳しく聞くと、食事が終わり、私が帰るところにロナさんが心配してついて来てくれたみたいだ。
もうちょっとロナさんと話をしたかったんだけどなぁ。
「あ、そうだ! ロナさん、錬金釜ありがとうございました、助かりました」
伝えておきたいことだけ思い出した。
「ん、よかった」
やっぱり外で錬金ができるって便利だよね。
あれをくれた、ロナさんには感謝しかないよ。
……それでお礼にいつか料理しに行くことになったんだっけ?
ロナさんが私の料理を求める理由もわかったよ。
「お礼の料理は、騒動が終わったら作りに来ますね」
「待ってる」
明後日には、街にゴブリン軍団攻めてくる。
明日はその準備で大忙しになるだろう。
私もそうだし、ロナさんも、鍛冶の仕事で忙しそうだ。
だから、平和な時間はこれで終わり。
「約束しましたよ」
「ん、約束」
なんとしても、明後日を乗り切る。
私は決意を新たに、自分の家に帰るのだった。




