スーサイド・アクアリウム
N[エヌ]
ねえ、知ってる?あの都市伝説のようなウワサ──。
とあるSNS、貴方が「死にたい」と呟けば、ひとつのDMがくるらしいの。
ツイートもメディアもいいねも0件、身元不明の人……アカウント名は「N」。
なんでも、貴方の「死にたい」という願望を叶えてくれるそう。
「……知らないな、そんなこと」
「えぇ〜、全くミサはホントに世間に疎いんだから!」
とある私立学校、食後の昼休み中、私は親友の茉莉子と都市伝説などの怪談について駄弁っていた。
私は言われた通り世間に疎い、テレビも見ないしネットもよく知らない、私にあるのは勉強と本だけ。
なぜか?それは──
「ねぇミサ、最近は……大丈夫?」
「え?」
「家、殴られたりしてない?」
そう茉莉子は私の耳元に囁いてきた、なんだかくすぐったい。
「最近は……大丈夫だよ」
「そっか……よかった、困ったことがあったら直接は助けて上げられないけど、愚痴でもなんでも聞くから」
「うん……ありがとう」
私は静かに目を逸らした。
***
私の家……いわやる親は毒親だ。
両親ともエリート大学卒、お偉いさんとして働いている。
2人とも「出来る人」だったから、私も両親の作ったレールに沿って人生を歩んでいる。
でも私は上手くいかなかった。
2人のように、出来る人ではなかった。
どんなに努力しても、上には上がれなかった。
そのせいで、今日も絶えない生傷を作っている。
深い溜息を吐いた塾の帰り道、もう遅い時間にもなって私は、とある場所へ向かっていた。
──白く光ったスマホを片手に。
なんでもない住宅街の、ぽつんと照らされた電柱の下に"その人"はいた。
私はその人に近づき、問いかける。
「──貴方がNですか」
「……そうだね」
……見た感じまだ若そうな男性だ、この季節にしてはちょっと先取りしている格好だった。
「はい、これ」
そう言って男性は黒い封筒をこちらに差し出してきた。
「ちゃんと書いて次会う時までに持ってきてね、頼んだよ」
「……分かりました」
私の返事を聞き男性は暗闇の中へと消えていく。
私は黒い封筒を握りしめ帰路へと着いた。
Nなんて、知らなかったのだ。
ただどこにも吐ける場所がなくて、ただミサから教えて貰ったことのあるSNSに登録しただけ。
よく分からないまま、そう吐いただけ。
私は初めて知ったのだ。
自殺幇助をしている"N"の存在を。
そうだ。
私は"自殺"するのだ。