銀河鉄道の線路
宮沢賢治様に敬意を込めて。
それは月夜の記憶。
目も眩むような星月夜。
天の川は近く、まだ終点じゃない。
*
「ねえ!銀河鉄道があるよ!」
騒がしく叫ぶのは私の友達。
指を指した先は、暗い夜空が横たわるだけだった。
「なにもないじゃない」
「そんなことないよ。さっきヒューって光が流れたんだ」
それは流れ星だろう。
その言葉を飲み込んで、もう一度見上げる。茹だるような空気の先、星も見えない空がある。
「じゃあそれは銀河鉄道だったんだね」
私は肯定した。
それから私たちは、ただ、空を眺めてた。
遠くから祭囃子が聞こえる。
着ている甚平が喧騒へ行かないのかと問う。
「祭り、行く?」
私の友達が聞いた。
その手には、食べかけの林檎飴とおみくじが握られていた。
「いや、いい」
私は否定した。
まだ、銀河鉄道を探したかったからだ。
「みて。あそこを銀河鉄道が通るよ」
私の友達は虚空を指差した。
「何も無いじゃない」
「そんなことないよ。あれが天の川。そのほとりに、ほら、線路があるよ」
彼の瞳には、星の十字架や蠍なんかが見えているのか。そう思って覗き込めば、星座早見盤のように輝いていた。
空の先、私には死者を運ぶ路線の線路すら見えないが、この瞬間のこの空間が綺麗で、いいと思った。
それから私たちはしばらく、星座を探し続けた。
「じゃあ私は帰るよ」
私から言い出した。
祭りの終わりはすぐそこまで迫っていた。
「じゃあ僕はいくよ」
そう言って彼はいこうとした。
それが、どうしようもなく嫌で、
「ねえ!今年は紫のコスモスが咲きそうなんだ!見に来てよ!」
彼は目を少し見開いたが、すぐに苦笑し、
「もう少し、早く知りたかったな」
と言った。私はそのまま行ってしまわないように矢継ぎ早に、
「返事は?」
と。
彼は、ひどく悲しい表情をしたあと、自分の告白するように、
「もちろん」
と。
そのまま行ってしまった。それからはどれだけ呼び掛けても、返事は帰ってこなかった。
*
その次の日のことだ。
私の友達が、発見された。
昨日私たちがいた山の川で、腐敗した彼がいたらしい。
私は、学校を飛び出して、昨日私たちがいた場所へ向かった。
そらは晴天だった。
そこには、確かに食い散らかされた林檎飴と、少し汚れたおみくじがあった。
おみくじの結果は、吉だった。
それからは、私にも見えるようになった。
銀河鉄道の線路。