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銀河鉄道の線路

作者: 入井 橙治

宮沢賢治様に敬意を込めて。


それは月夜の記憶。

目も眩むような星月夜。


天の川は近く、まだ終点じゃない。





「ねえ!銀河鉄道があるよ!」


騒がしく叫ぶのは私の友達。

指を指した先は、暗い夜空が横たわるだけだった。


「なにもないじゃない」


「そんなことないよ。さっきヒューって光が流れたんだ」


それは流れ星だろう。

その言葉を飲み込んで、もう一度見上げる。茹だるような空気の先、星も見えない空がある。


「じゃあそれは銀河鉄道だったんだね」


私は肯定した。


それから私たちは、ただ、空を眺めてた。


遠くから祭囃子が聞こえる。

着ている甚平が喧騒へ行かないのかと問う。


「祭り、行く?」


私の友達が聞いた。

その手には、食べかけの林檎飴とおみくじが握られていた。


「いや、いい」


私は否定した。


まだ、銀河鉄道を探したかったからだ。


「みて。あそこを銀河鉄道が通るよ」


私の友達は虚空を指差した。


「何も無いじゃない」


「そんなことないよ。あれが天の川。そのほとりに、ほら、線路があるよ」


彼の瞳には、星の十字架や蠍なんかが見えているのか。そう思って覗き込めば、星座早見盤のように輝いていた。


空の先、私には死者を運ぶ路線の線路すら見えないが、この瞬間のこの空間が綺麗で、いいと思った。


それから私たちはしばらく、星座を探し続けた。


「じゃあ私は帰るよ」


私から言い出した。

祭りの終わりはすぐそこまで迫っていた。


「じゃあ僕はいくよ」


そう言って彼はいこうとした。


それが、どうしようもなく嫌で、


「ねえ!今年は紫のコスモスが咲きそうなんだ!見に来てよ!」


彼は目を少し見開いたが、すぐに苦笑し、


「もう少し、早く知りたかったな」


と言った。私はそのまま行ってしまわないように矢継ぎ早に、


「返事は?」


と。


彼は、ひどく悲しい表情(かお)をしたあと、自分の告白するように、


「もちろん」


と。


そのまま行ってしまった。それからはどれだけ呼び掛けても、返事は帰ってこなかった。





その次の日のことだ。


私の友達が、発見された。

昨日私たちがいた山の川で、腐敗した彼がいたらしい。

私は、学校を飛び出して、昨日私たちがいた場所へ向かった。


そらは晴天だった。


そこには、確かに食い散らかされた林檎飴と、少し汚れたおみくじがあった。


おみくじの結果は、吉だった。



それからは、私にも見えるようになった。


銀河鉄道の線路。


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