解雇ですか?
最上階の部屋は屋上と勘違いさせる程のガラス張りの部屋だった。
そんな中、白髪美少女とテーブルを挟んで椅子に座って向かい合っている。
テーブルにはお茶と和菓子が置いてあったが、気軽に食べられる雰囲気ではない。
「では、暁アヤメ。何かあるかの?」
「えっと、解雇ですか?」
「そんな訳あるか。お前さんを呼んだのは事態を把握するためじゃ」
ああ、良かった。段ボール生活への誘いではなかった。
「レポートを確認しても、どこまで泳げるか試す、しか書かれてないなら本人の口から聞くしかないじゃろ?」
「あの果てを目指していたんですけれど」
「泳ぎで?」
「泳ぎで」
「モンスターと出くわさなかったのか?」
「そうですね、魚一匹にも出くわさなかったので不思議に感じました」
『あのチュートリアルはしました?』
突然会話に混ざってきた第三者の声の方向を見ると、モニターに狐のぬいぐるみを模したキャラクターが映っていた。
今まで雲を映していた窓だと思っていたのは全部、モニターだったみたいだ。
昨今のウェブ会議ではよく見かける光景だけれど、初めて見た。
「ス、スキップしました」
『なるほど。チュートリアルで釣竿を入手しないと魚や海の魔物と遭遇しないようになっていますね』
「ならばチュートリアルをスキップしてもチュートリアルの特典を受け取れるようにすれば再発防止になるのじゃな?」
『そうですね。新大陸の方はどうしますか?』
「新大陸イベントを全サーバーで開始するのじゃ。ただアヤメの参照ファイルにそれを入れると、全体ネタバレになるのかの?」
『なりますね。アヤメさんのキャラデータの位置調整だけをしても事実は変わらないので、過去データごと切るしか』
「去年、海のデータいじったら津波イベントが起きたからのう」
『ですね。島の位置をずらしてから、アヤメさんが今いる場所に適当なオブジェクトを立て替えて、その後にアヤメさんを前回セーブした場所に飛ばすのが妥当かと』
「うむ、とりあえずそれを試してみてくれ」
『はい』と返事をした後、狐のぬいぐるみは元の雲の景色に戻った。
「アヤメよ」
「はい」
「一週間ほどオフラインモードでよろしく頼む」
あ、オフラインモードあるんですね。
「バグの件はひとまず終わったとして、アヤメよお前さん和菓子は嫌いなのか?」
いやいやいや、食べて良かったんですか?
驚いた顔を多分していると目の前にホールケーキが運ばれてきた。