何でも大臣の新任務(2/4)
「とりあえず、これで人手不足は解消だな。さて、私はのんびりと昼寝でもしよう」
「だからサボるなって!」
いかにも一仕事終えたふうに伸びをするキュアノスに、エレズが怒声を飛ばす。
「大体、足りないのは人手だけじゃないんだよ。この国には本当に何もない。食料だってその内尽きるだろうし、ないものだらけなんだよ」
ほぼゼロからの建国は、課題がかなり多かった。『何でも大臣』のエレズは、それを解決する策を考えなければならない。
「食料、か。そう言えば植物性ゴブリンにとっての食物は、水と日光だったな」
キュアノスは、ラティーナから聞き出した情報を思い出しているようだった。
「水くらいなら、私でもどうにかしてやれるぞ。いつまでもサボり魔呼ばわりされているのは、何だか良くない気がするからな」
「えっ、それってどういう……」
エレズが疑問を投げかける前に、低く唸るような音がした。作業をしていたゴブリンやラティーナの手が止まる。
何だか嫌な予感がした。
「おい、キュアノス。何したんだ?」
「すぐに分かる!」
その言葉のとおりになった。
一瞬強く地面が揺れたかと思うと、ラエゴブ王国の中心地辺りに、間欠泉のような巨大な水柱が出現したのだ。
「な、何これ!?」
ラティーナが悲鳴のような声を上げた。まるで豪雨に見舞われた後のように、辺りが吹き出してきた水でビショビショになっていく。
「これでゴブリンたちの食べ物には困らないだろう?」
キュアノスが溌剌と言ってのけた。
「この辺りには、地下水が溜まっているようだったからな。ちょっと魔力を送って、それを地上へ出してやったのだ。なにせ私は水の精霊だから、自然……特に水を従えるのは得意で……」
「やめろ、キュアノス!」
テーブルの上に広げていたメモが濡れてしまわないように覆い被さりながら、エレズは怒鳴った。
「ラエゴブ王国を水没させたいのか!? 建国一日目で国が滅ぶなんて、冗談じゃないぞ!」
「滅ぶ? そんな大げさな」
「いいから早く!」
エレズにせっつかれて、キュアノスは仕方なさそうに魔法を駆使して水の流れを変えた。水柱が姿を消し、後には水が吹き出ていた穴と、びしょ濡れになった地面だけが残る。
「まったく……」
ため息を吐きながら、エレズは濡れた服の裾を絞った。これなら、サボってくれていた方がよかったかもしれない。
「俺、着替えを持ってないんだぞ。風邪ひいたらどうするんだ」
「エレズ、私の服を貸すわよ」
テントの中へ入っていったラティーナが、小脇に替えの服を抱えて戻ってきた。エレズはその厚意だけをありがたく受け取っておくことにしたが、キュアノスはちょっと楽しそうな顔になった。
「おお、ドレスか。地味なデザインばかりだな。何でも大臣は、こういうのが趣味なのか?」
「えっ……あっ……」
ラティーナは、自分の失敗に気が付いて気まずそうになった。彼女が持ってきたのは、『ラティーナの』替えの服だったのだ。デザインが地味なのは、ラティーナが派手な格好を好まないからだ。
「だが、サイズが合わないんじゃないか? よければ、私のを着ていろ」
エレズに女装趣味があると勘違いしたまま、キュアノスが自分の外衣をエレズの頭から被せてきた。そして、ふむ、と首を傾げる。
「これもサイズが合っていないようだな。ロングコートみたいになっているぞ」
キュアノスの方がエレズよりも背が高いのだから仕方がない。
とは言え、濡れた服でいるよりはマシかと思ったエレズは、ラティーナに後ろを向いてもらっている間に、キュアノスの外衣を素肌の上から直接羽織った。
俺はドレスは着ないからな、とキュアノスに言った後で濡れた服を干しながら、エレズは頭を抱えた。
「本当にこの国、ないものだらけだな」
「水ならあるぞ!」
「もう水はいいよ。ないのは物資だよ、物資」
元気よく返してきたキュアノスに、エレズは釘を刺した。もうあんな洪水騒動はごめんだ。




