何でも大臣の新任務(1/4)
「お前はたき火用の薪の確保。お前は周辺の哨戒。お前は木材の運搬と……」
昼過ぎのラエゴブ王国。食事を終えたエレズは、国の基礎を固めるために必要なことをリストアップした表とにらめっこしながら、ゴブリンたちに命令を下していた。
それを受け、ゴブリンたちは熱心に働きだす。彼らはいつだって与えられた職務に一生懸命だ。主人の命令を忠実に守ろうと、真剣な面持ちで作業をこなしている。
「それに比べてお前ときたら……」
ゴブリンに指示を出し終わったエレズは、テントのそばに寝っ転がっているキュアノスに険しい視線を向けた。
「うん? どうした、何でも大臣」
魔法で宙に浮かせた丸太をぶつけ合いながら遊んでいたキュアノスが、無邪気な仕草で首をかしげてくる。
「遊んでないで真面目に働いてくれ。土地の整備に領土の拡大、野生動物よけの柵の設置、その他諸々……やることは山のようにあるんだぞ」
最初は出会ったばかりのキュアノスを警戒していたエレズだったが、それも彼と数時間過ごす内に解消されていた。
彼は好奇心旺盛ではあるものの、まったくの平和主義で、特にこちらを害する意図はないと判断したからだ。これなら国民としてこの国に置いておいても問題はないだろうと思ったのである。
しかし、敵意と同じくらい労働意欲も持ち合わせていないのが目下の悩みだ。
さっきからずっとその辺りの草をちぎっては投げ、ちぎっては投げしたり、今のように資材で遊んだりしているだけで、何も建設的なことはしていないのである。
「まあ、そう焦るな。何とかは一日にしてならずというやつだ」
そんなことを言いながらのらりくらりと追求をかわす。エレズはその態度に呆れかえりながらも、今度はラティーナの方に向き直った。
「ラティーナ様も、そろそろお絵描きはやめてください」
彼女はテーブルの上に置いたスケッチブックと向き合っていた。エレズが注意すると、ラティーナは顔を上げて「失礼ね」と眉根を寄せた。
「私はこの国にとって大事なことをしている真っ最中なのよ。……ほら」
ラティーナが見せてきたスケッチブックには、複数種類の絵が描いてあった。「何ですか?」とエレズが尋ねる。
「この国の国旗のデザイン案よ」
ラティーナは誇らしそうに言った。
「とりあえず、五つくらいは考えたわ。エレズはどれがいいと思う?」
(国旗って……他にやることがもっとあるだろう……)
エレズは軽い胃痛のようなものを覚えながらも、ラティーナが考えたデザイン案の内の一つを指さした。適当でもいいから何か選んでおかなければ、彼女は延々とスケッチブックに筆を走らせ続けているだろうと思ったのだ。
「あら、やっぱりエレズならこれにすると思ったわ!」
ラティーナは何故か嬉しそうだ。
「これね、ゴブリンの手型をイメージしてるの。我ながらナイスデザインよね」
「……そうですね」
適当に相槌を打って、エレズはやることリストを置いて立ち上がる。近くに置いてあった鍬を握ったのを見て、キュアノスが目を輝かせた。
「もしかして『動物栽培』か?」
「……そうだよ。誰かさんが働かないから、その分、人手を増やさないと、って思ってね」
皮肉を織り交ぜながらエレズが返事する。嫌味にまるで気が付かないキュアノスは、丸太を飛ばすのをやめて、興味深そうにこちらのすることを見ていた。
「ふむふむ、土地を耕して……うん? 今のは何をしたんだ?」
「俺の息を吹き込んだんだよ。種の代わりみたいなものかな。後は水をまいて、毎日お世話して……三日くらいで芽が出る。収穫できるのは、それから一週間後くらいだ。ホブゴブリンだと、もう少し時間はかかるけど」
作業しながら説明してやると、キュアノスは「面白い力だ」と言った。
「この国もすぐに賑やかになるな。さすがは何でも大臣だ」
「まあ、俺が作れるの、ゴブリンだけなんだけどね」
感心するキュアノスに対し、エレズは苦笑した。ゴブリンは大して魔力も強くない種族なのだ。魔物族の中では弱い部類に入る。
「それでも、お前の言うことを忠実に守るのは素晴らしいのではないか?」
「確かにね」
栽培されたゴブリンは、一体の例外もなく、エレズに忠誠を誓っている。別にエレズが何かしているわけではなく、そういう生き物として生まれてくるらしいのだ。
そのゴブリンたちを使って、エレズは国を運営していた。魔王城の雑用から哨戒任務まで、あらゆることを彼らに任せていたのである。
ゴブリンたちを取り纏める上司の役としてホブゴブリンを置いて、彼らからの報告を受けて何か問題が起こっていないか確認し、異常があればその解決に当たる。
それがリーヴ王国でのエレズの毎日だった。
小規模な国家とはいえ、住んでいるのはあらゆる意味で適当な魔物族ばかりだ。そのため、いつも何かしらの困った事件が起きており、エレズは多忙な日々を送っていた。
国を追い出される際に『城でぼんやり過ごしてる』と揶揄されたエレズだったが、実際はその真逆で、エレズは他のどの四天王よりも忙しい思いをしていたのである。
もっとも、そのことに彼らが気付くことは最後までなかったのだが。




