ラティーナとエレズとゴブリンの国(3/4)
「ルーシー! そろそろおやつの時間だぞ!」
エレズが戦慄していると、キュアノスが割り込んできてルーシーを自分の方に引き寄せた。
「この辺りの名産の果物を使ったパイを、女王陛下がご馳走してくれるそうだ! 私たちの可愛い宰相殿は職務中はいつも甘い物を食べているから、このパイもきっと気にいるんじゃないか?」
「……そうですね」
何となくそっけない返事をしながら、ルーシーがキュアノスの手を自分の肩から引き剥がした。
「お似合いなのにな。俺は別に気にしないから、ずっとくっついてればいいのに」
してやられたことが悔しくて、エレズはちょっとからかってやった。ルーシーの頬が少し赤くなる。
「別に私たちはそういう関係じゃ……」
「じゃあ、どういう関係だよ」
「一緒に夜明けを迎えた関係なのだ!」
キュアノスが堂々と宣った。ルーシーがますます赤くなりながら、「誤解を招くような発言はやめてください!」と言う。
「私が執務室で徹夜で書類整理をしていたら、遊びに来たキュアノス様が退屈して寝ちゃっただけでしょう! 起きたのが翌日の朝だった、ってだけじゃないですか!」
「じゃあ、口づけか? 涙を……」
「それは話しちゃだめです!」
ルーシーがあんまり狼狽えるものだから、エレズはついに吹き出してしまった。『したたかな宰相』ではないルーシーの素顔は、やはり楽しい幼なじみのままだ。
「あら、二人とも、仲いいじゃない」
先ほどから黙って話を聞いていたラティーナが、何だかうらやましそうに言った。
「でも、私たちだって負けてないわよ! ね、エレズ!」
ラティーナが期待の籠もった目で見つめてきた。何かしなければ、と思ったエレズはとっさにラティーナの手を握る。
ラティーナとの関係が変わってから、見つめ合ったり、手を繋いだりする時間が増えていたので、自然と行動に移すことができた。
「ほう? 女王陛下も隅に置けないじゃないか」
「でしょう?」
目を見張るキュアノスに対し、ラティーナは自慢げに答える。もはや手をつないだくらいでは赤面もしなくなった辺り、自分もラティーナも成長したな、とエレズは感慨深い思いがした。
それでも、人前でこんなことをするのはまだ少し恥ずかしい。
「ずっと一緒にいてね、エレズ」
だが、ラティーナはエレズよりもずっと順応が早く、笑顔でそんなことまで言ってくる始末だ。
(ああ……もう本当にラティーナ様は……)
そんな風に笑いかけられたら、適当にはぐらかすなんてできないじゃないかと思いながら、エレズはギャラリーの視線をできるだけ意識しないようにして返事をした。
「はい、もちろんですよ」
エレズの返事に、ラティーナは満足そうな顔になった。キュアノスもルーシーも、冷やかしたりなどせずに、微笑ましいものを見るような目を向けている。
エレズは、先ほどルーシーをからかったことを急速に申し訳なく思うようになってしまった。




