ラティーナとエレズとゴブリンの国(2/4)
「それに、この戦いでラエゴブ王国がタロス王国に勝っちゃったでしょ? そうすると……何が起きるか分かるわよね?」
「まあ、どこかの国の奴らから戦いを挑まれるかもな。『無名の新興国家が、あのタロス王国を負かしたぞ! そのラエゴブ王国って言うのは、一体どんな国なんだ? 試しに自分たちも戦ってみようじゃないか!』って感じで」
魔物族は血の気が多いので、エレズにはそんな未来が容易に想像できた。ルーシーが「そうね」と言う。
「だから、いざっていう時のために、軍備は整えておいた方がいいわ。でも、今のままのラエゴブ王国じゃ、それも難しかったでしょう?」
「お気遣いどうも……あっ」
エレズは肩を竦めたが、直後にあることに気が付いて衝撃を受けた。
「おいルー……。まさかそのために、俺たちを戦いに引き込んだんじゃ……」
「あら? 何のことかしら?」
ルーシーは食えない笑みを浮かべた。エレズは頭を抱える。
「常勝不敗のタロス王国が負けたとなれば、それは魔界中に衝撃を与える知らせになる……。さっき俺が言ったみたいに、『あのタロス王国を破った国と、力比べがしたい!』って感じる奴らだって大勢出てくるだろう。皆、好奇心が旺盛だから」
「そうね。魔界って、そういうところだし」
「でも……その『好奇心』がより刺激されるのは、『大国であるエーテル王国が、同じ大国のタロス王国を倒した時』よりも、『無名の国家が、大国であるタロス王国を倒した時』の方だ」
「ええ、そうかもね」
「ルー……。皆の『好奇心』をエーテル王国からそらすために、俺たちと同盟を組んで一緒に戦わせたんだな。……タロス王国の領土をあっさりとくれたのもそれが理由か。この戦争の『勝者』がラエゴブ王国だと印象付けようとした……」
「ご想像にお任せするわ」
ルーシーが清々しいまでの笑みを浮かべながら言った。
(ああ……一番敵に回したくないパターンだな、これは……)
エーテル王国が領土拡大の意向を持たないように見せていたのも、そのためなのだろう。
もちろん、精霊は闘争本能が他の魔物族と比べて薄いというのもあったのだろうが、ルーシーはそれとは別に、エーテル王国をできるだけ目立たなくさせようとしていたのだ。
戦って領土をどんどん広げていくような国家は、嫌でも魔界中の目につく。力を誇示したい魔物族にとっては、そんな国など、絶好の腕試しの相手だ。
だが、どことも戦わずに内政だけに力を入れている、実力が未知数な国は、大抵の魔物族にとっては『つまらない』相手であると感じられることだろう。
タロス王国のように大国小国関係なく、手当たり次第に戦争を仕掛けているような国家なら別だが、それ以外のところは、何か特別な理由がない限り、エーテル王国を狙ったりなどしないはずだ。
「全てはエーテル王国を戦争に巻き込まないため、か」
そのためにルーシーは幼なじみでさえも利用したのだ。正直に言ってエレズにとっては、タロス王国が率いていた大軍などよりも、よっぽど彼女の方が恐ろしく感じられた。




