ラティーナとエレズとゴブリンの国(1/4)
「新魔王様万歳!」
「おめでとうございます! ラティーナ女王陛下!」
沿道に大勢の市民が立ち、あちこちから歓声が聞こえてくる。
よく晴れた日のこと。エレズはラティーナと共に、タロス王国の魔王城の城下町を歩いていた。
いや、旧タロス王国と言うべきだろうか。なにせ今、タロス王国領だったところを治めているのは、ラエゴブ王国なのだから。
エレズの後ろからついてくるゴブリンたちが、カゴに入った花をばらまき、国旗を高らかに掲げる。
集まった市民に手を振りながら進む一行は、やがて魔王城に到着し、長かったパレードは終了した。
巨大なエントランスホールの門が閉められ、市民たちの姿が見えなくなり、エレズはようやく緊張感から解放される。
「お疲れ様です、ラティーナ様」
「ええ、エレズもついてきてくれてありがとう。それにしても広いわ、この国の城下町。……ああ、もう『この国』なんて他人行儀な呼び方はよくないかしら」
「そうですね。『うちの城下町』って言うべきだと思いますよ」
ラエゴブ王国とエーテル王国の軍事同盟がタロス王国軍を負かし、タロス王国の魔王も戦いに巻き込まれて死亡した。
この戦いの戦後処理についてエレズがルーシーと話し合った結果、ラエゴブ王国がタロス王国だった領土を治めることとなったのだ。
正体を隠し、最後までエレズに敵対していたジンも、エーテル王国の西部地方に幽閉することができたし、先ほど終了したばかりの旧タロス王国民への新女王のお披露目をもって、今回の戦争に一端の決着がついたことになる。
「それにしても、意外と皆歓迎してくれたわね。私、もっと胡散臭いものを見る目で迎えられるのかと思っていたわ」
「はい、実は俺も、そんなにすぐに新しい君主が受け入れられるかなって、ちょっと心配してたんですけど、大丈夫でしたね」
エレズは笑顔でラエゴブ王国の国旗を振りながら、「女王陛下万歳!」と歓声を上げていた市民の姿を思い出していた。
やはり彼らも魔物族だから、戦いに負けて死んでしまった弱い前魔王よりも、勝者である強い新魔王の方が良いのだろう。
市民だけではなく城の関係者からも、新しい君主を受け入れることに不満の声が上がっている様子はない。
「女王陛下! 良いパレードだったな!」
「バルコニーから様子を見させてもらったわよ、エレズ」
城の奥からやって来たのは、今回の式典に招待していたキュアノスとルーシーだった。
「ありがとう、二人とも」
「招待状、受け取ってくれてよかったよ。忙しいから来てくれないかと思ってた」
エレズが笑いかけると、キュアノスが「私はいつでも暇だぞ!」と元気よく返す。ルーシーが「いいですね、予定帳が真っ白な方は」と皮肉をこぼした。
「ところで、女王陛下。ずっと気になっていたのだが、それは何だ?」
キュアノスがラティーナの手の中のものを見つめる。小さな木彫りの人形だ。
「ゴブリンたちに作ってもらったの。お父様の姿を模してるのよ。お父様、今回の式典に参加できなかったから……。でも、いいニュースもあるわ。お父様の竜石化、意外と早く解けるかもしれないの。って言うのはね、タロス王国……じゃなくて、この国には、竜石化について詳しい人が住んでいて……」
ラティーナがキュアノスの問いかけに応じる傍ら、エレズはルーシーに話しかけた。
「ルー……本当に良かったのか? タロス王国、もらっちゃって」
首都は最初に建国した場所――つまり、あの山間の土地とすることに決めていたが、住み心地はやはり旧タロス王国領の方が上なので、エレズたちは普段はこちらに居を構えることになっていた。
「いいわ。これ以上エーテル王国の領土が広くなったら、私、過労死しちゃうかもしれないから」
ルーシーが疲れたように笑う。
相変わらず目の下のクマは濃いが、この式典にコピーではなくオリジナルを寄越してきた辺り、彼女の気遣いが見えるようだ。
「それだけじゃなくて、ラエゴブ王国にも、エーテル王国と同じくらいの国力をつけて欲しかったのよ」
「同じくらいの?」
「ええ。私たちは対等な友好国だもの」
だけど、とルーシーは続ける。
「かたや大国、かたや小国じゃ、パワーバランスが取れないじゃない? いつかそれが悪い方に作用して、悲しい選択をしないといけなくなる時が来ないようにしないとね。戦争なんて面倒だから、もうしたくないもの」
「さすが宰相閣下。色々考えてるんだな」
タロス王国は破壊と力の誇示の目的で他国に戦争を仕掛けても、略奪行為には大して興味がないような国だった。
それは、元々国が豊かだったから、という側面があったためなのだろう。つまり、自国に何でもあるんだから、戦争をしてまで他国から略奪する必要なんてなかったのだ。
タロス王国は、他の国家には真似できないような頻度で――それこそ遊戯感覚で戦争をしていた。
そんなことができていたのは、『娯楽のための戦争をする余裕があったから』という理由に他ならないだろう。




