手をつないで(2/2)
「あいつ、私には興味なかったみたいだし。それよりエレズのことよ! 私、本当にどうしようって思ったんだから……」
エレズの腕を握るラティーナの手に、力が籠もった。
「助けに来てくれたのは嬉しかったけど、あんまり無茶しないでね。エレズに何かあったら私……」
「ラティーナ様……」
ラティーナの顔があんまりにも不安そうだったから、エレズは彼女の手をそっと握った。ラティーナは真っ赤になり、黙り込む。エレズも恥ずかしかったけれど、手を離す気にはなれなかった。
「ごめんなさい。でも俺、ラティーナ様が心配で……」
「……私だってエレズが心配なのよ。だって、エレズは私の大切な人なんだから」
「俺にとっても、ラティーナ様は大切な人ですよ」
ラティーナの瞳が少し見開かれ、何か言いたそうな顔になった。エレズも、ふと、彼女に伝えるべきことがあるような気がしてきた。
「エレズ様! そろそろ日が暮れます! 野営の準備をしますか?」
後ろから声が聞こえてきて、エレズとラティーナは飛び上がった。二人とも、他に人がいるなんて、すっかり忘れていた。
「あ、ああ、そうだな。そろそろ休もう。……あっ、ジンのことはちゃんと縄か何かで縛っておいてくれ。日が完全に落ちたら、石化が解けて、また暴れ出すだろうから」
「承知しました!」
元気よく返事して、ゴブリンはエレズの命令を実行するために去って行った。
何となく水を差されたような気分だ。前にもこんなことがあったような気がしながら、エレズは白けた表情でラティーナの方を見た。
「……ねえ、エレズ、手、離しちゃう?」
エレズに見られているのに気が付いたのか、ラティーナが小さい声で問いかけてくる。エレズは、まだ彼女の手を握ったままだった。
「私……もうしばらくは、このままがいいんだけど……」
「……そうですね。俺もそう思います」
恥じらいを堪えるようなラティーナの声を聞いていると、こっちまで羞恥に襲われる。何だか自分はとても大胆な行為をしているのではないだろうかと思えてきて仕方がなかった。
それでも、ラティーナに言ったとおりに、もうしばらくはこのままでいたかった。これは、ラティーナを取り戻したことに安堵しているからなのだろうか。それとも、全く別の気持ちゆえなのだろうか。
「あ、あのね、違うのよ」
エレズが何も言えないでいると、黙っているのに耐えられなくなったようにラティーナが話しかけてきた。
「いえ、違わないけど、変な意味じゃなくてってことよ! 変な意味って何よって話だけど……」
ラティーナがモゴモゴと口を動かした。
「わ、私、エレズのこと……その……ええと……な、何でもないわ! 今のはナシよ! 気にしないで!」
エレズは何も喋っていないのに、ラティーナは一人で弁解して自爆していた。慌てすぎて、自分で自分を追い込んでいることにも気が付いていないらしい。
「……気にしなくていいんですか?」
エレズは真っ赤になりながら、自分も彼女と同じように、取り返しのつかないことを言うなら今しかないと思っていた。
今なら、いつの間にか芽生えていたラティーナへの温かな感情が何なのか、はっきりと口に出せるような気がしていた。
「……じゃあ、俺の言うことも気にしないでください。俺……ラティーナ様のこと、好きです」
「ええ、そうね、気にしないわ。エレズが私のこと好きなんて……えっ?」
途中までうんうんと頷いていたラティーナは、エレズの言葉の意味を理解した途端に固まった。
「す、好き? 好きなの? エ、エレズが私を? じょ、冗談でしょ!? からかうなんてひどいわよ!」
「からかってません。俺は本気です」
エレズは、今度は真っ直ぐにラティーナの目を見て言った。
「俺は、ラティーナ様のことが好きです」
「エレズ……」
ラティーナの目が急速に潤み始めた。一瞬涙がこぼれ落ちそうになったが、ラティーナはその前に、目元を手の甲でゴシゴシと擦った。
「わ、私も……好き……」
ラティーナが震える声で告白する。
「ずっと好き……だったの……」
「ずっと?」
「ええ、リーヴ王国にいた頃からずっとよ」
「……ごめんなさい、俺、何も気が付かなくて」
「もう、本当よ」
ラティーナがちょっと笑った。
「でもいいわ。許してあげる」
ラティーナが、さらにしっかりとエレズの手を握ってきた。
エレズはそれを握り返す。もうラティーナに、どこへも行って欲しくないと言うかのように。
ゆっくりと日の沈む中で、ゴブリンたちが野営の準備をする音を聞きながら、二人はいつまでも手を握り合っていた。




