国民第二号、誕生(2/2)
話をしている内に、二人は広場につく。食材の泥を落としているゴブリンの横で食器の準備をしていたラティーナが、こちらに気が付いて怪訝な顔になった。
「……誰?」
「私か? キュアノスだ」
青年はにこやかに自己紹介した。だが、ラティーナが聞きたかったのは、恐らくそういったことではなかっただろう。説明を求めるようにこちらを見てくる。
「ところでここは何だ?」
エレズがラティーナに説明するより前に、キュアノスが質問してくる。ラティーナは「私たちの国よ」とちょっと誇らしげに言った。
「ほう、こんなところに国が! 名前は何と言うんだ?」
「な、名前……?」
ラティーナはわずかにたじろぐような様子を見せた。そう言えば、国の名前を考えていなかったとエレズは気が付いた。
「えっと……『ラティーナとエレズとゴブリンの国』よ!」
「長い名前だな」
「……略して『ラエゴブ王国』よ!」
ケチをつけられたと思ったのか、ラティーナはとっさに略称を考えたようだった。まさかこんな適当な経緯で国の名前が決まるなんて思っていなかったエレズは、少し呆れてしまう。
「元首は誰だ?」
「私よ。ラティーナ女王陛下よ!」
この質問にはラティーナは胸を張って答えた。エレズとしても、ラティーナを君主と仰ぐことに特に異論はない。
「じゃあ彼は?」
キュアノスがエレズの方を見ながら尋ねる。ラティーナは困ったように、「エレズは国民第一号……かしら」と言った。
「その……色々してくれる予定よ。……私の補佐とか」
「補佐? 大臣か。色々してくれるのなら『何でも大臣』だな!」
「何でも大臣……いいわね、それ。よし、今からエレズは『何でも大臣』よ!」
「な、何でも大臣ですか……」
全然威厳のなさそうな役職だとエレズは思った。だが、ラティーナはそんなことは気にしていない。それどころか、最初は不信感を抱いていたキュアノスに、好意的な視線を向けている。
「あなたのお陰で国の重大事項が決まったわ。よければ国民第二号の、名誉ある地位を与えてあげるわよ」
「よし、もらおう!」
ラエゴブ王国の人口が早くもプラス一されたことに、エレズは目を丸くした。
(さすが魔物族……なんてノリが軽いんだ……)
魔物族は、基本的に難しいことはあまり考えない種族だ。人間族の血が入っているエレズからすれば、適当極まりなく感じてしまうこともよくある。
(まあこの国も、まさに魔物族のやり方、って感じの手順で作られたしな……)
エレズの感覚では、新たな独立国家を作ろうとすれば、煩雑な手続きが必要になると考えてしまうのだが、魔物族にとっては、「ここに国を作るぞ」の宣言だけで事足りてしまうみたいだった。
もちろん、それがどこかの国の領土の一部だったりする場合ならいささか問題があるが、運のいいことにこの辺りは、今どこの国の土地でもない。
つまり、自由に使っていい場所なのだ。少なくとも、魔物族の認識ではそうなっている。
「ところで、ここのゴブリンは少し変わっているな。肌が緑の種族なんて初めて見たぞ」
「ああ、それ、エレズが『動物栽培』で作ったのよ。エレズは耕した土地から……」
ラティーナは、エレズが隠そうとした能力を堂々と説明しだした。彼らに国家機密などという概念はないのだ。
こうして、エレズたちの午後からの建国生活は、予想もしなかった飛び入り参加者と共に始まったのだった。




