手をつないで(1/2)
「ねえエレズ、あれ、どうするの?」
ゴブリンを引き連れながらエレズが帰路についていると、隣のラティーナが話しかけてきた。
ラティーナが後ろを指さしながら『あれ』と言ったのは、石化したジンのことだ。今はゴブリンたちに担がれて、最後尾に近い場所にいた。
ラティーナはすでに天候を操るのをやめていたが、少し前から青空が戻って、空には太陽が昇っていたため、彼はまだ石になったままだった。
「そうですね……下手なところに転がしておいて、また俺たちに何かしてきたら困りますしね……」
「じゃあ、壊しちゃいましょうか?」
ラティーナが提案した。
「私が竜の姿になって踏み潰しちゃえば一発よ!」
「……死なせるとまずいですからね」
「……ああ、そうだったわ」
ラティーナは思い直したようだった。彼のスキル『成り代わり』が発動してしまったら、今度はラティーナがジンに精神を乗っ取られることになってしまう。
「うーん……私が魔法を使っても、夜になったら強制的に石化が解けちゃうもんね。ずっと昼間ならいいんだけど……」
「……あっ」
エレズはあることを思い出した。
「ラティーナ様、まだエーテル王国の祭りでもらった優勝賞品って持ってますよね?」
「えっ、優勝賞品って、あの旅行券?」
突然話題が変わって、ラティーナは驚いていた。
エーテル王国で開催された『美人コンテスト』の優勝者に送られたのは、エーテル王国の西部地方の旅行券だった。
コンテストで優勝したのはルーシーなのだが、彼女はラティーナに商品を譲ったので、旅行券はラティーナのものとなっていた。
「ええ、あるけど。でも、そんなもの一体どうするの?」
「俺、エーテル王国の西部地方がどんなところって言ったか、覚えていますか?」
「もちろんよ。私がエレズの言ったことを忘れるわけないでしょう?」
ラティーナは自慢げだった。エレズは何故か嬉しくなる。
「ほら、ずっと嵐が吹いている丘とか、太陽が沈まない町とか……なるほど! そういうことね!」
ラティーナは合点がいったようだった。
「その太陽が沈まない町に、こいつを置いてくるのね! そうしたら、ずっと石のままだわ!」
「そういうことです」
エレズが頷く。
「事情を話せば、ルーも分かってくれますよ。今度、石像を一体寄付しに、エーテル王国に旅行に行きましょう」
「賛成!」
ラティーナも同意してくれて、何とかこの問題は解決できそうだった。
変わった気象現象ばかり起きる町を話題にしたからなのか、エレズはふと、先ほどの戦いのことを思い出していた。
「そういえばラティーナ様、天気を操る魔法、ちゃんと使えるようになってたんですね。実はあの作戦、ちょっとした賭けだったんですけど、成功してよかったです。やっぱりラティーナ様はすごいですね」
雷を落として敵を全滅させるというあの作戦は、ラティーナの協力がなければできなかったことだ。エレズは彼女を信用してあの方法を選んだが、上手くいって本当によかったと思う。
それに、ジンを石化させることができたのも、ラティーナお陰だ。
エレズは肉弾戦なんてまるで自信がなかったし、あんなに大きな拳が直撃していたら、間違いなく大怪我していたはずだ。もちろんゴブリンに当たっていても、ただではすまなかっただろう。
「ふふん、そんなの当然でしょ」
ラティーナが余裕の笑みを漏らした。
「だって私、たくさん練習……あっ! そうだ! エレズ! 血!」
ラティーナが急に大声を出すと、真っ青になってエレズの腕を取った。だが、患部にはすでに包帯が巻かれているのに気が付いて、すぐに安堵したような顔になる。
「治療されてる……」
「はい、ゴブリンが巻いてくれました」
エレズが突然腕を切った時にゴブリンの驚きようといったらなかった。辺りで雷が鳴っているのにも構わず、エレズの「伏せろ」という命令に従いつつも、すぐさま持ち運んでいた携帯用の医療道具で治療を開始したのだ。
「よかったわ。さすがエレズのゴブリンね」
「ラティーナ様こそ、平気ですか? 捕まっている間、何かひどいことされませんでしたか?」
彼女を救出に向かう間中、エレズはそのことばかり気にしていた。そのため、「されてないわ」というラティーナの言葉を聞いて、一安心した。




