VS『??』(4/5)
――お父様! お話聞かせて!
幼い頃、ラティーナはよくそうやって父のリーヴにねだっていた。
――あれがいいわ。『お空のお花屋さん』!
――ラティーナは、本当にこの話が好きだな。もう内容を覚えてしまっているんじゃないのか?
――ええ。覚えているわ。
ラティーナは、自慢げに返した。
――でも、好きだから何度でも聞きたいの。特にあのシーンがお気に入りよ。
『空のお城からの注文は何でしょう?
今日の天気は何でしょう?
黄色いお花は曇り空。
真っ白なのは晴れ模様。
それから赤は……』
(赤は『雷』……)
エレズが自ら傷つけた腕から、赤い血が流れていた。ラティーナは、自分のするべきことを一瞬にして悟る。
(……私、言っちゃったものね。エレズが帰ってくる頃には、完璧に魔法が使えるようになってるって)
エレズはその言葉を信用したのだろう。だから、ラティーナに協力するように言ったのだ。
(……出来るかどうかじゃないわ。やらないと!)
ラティーナはゆっくりと目を閉じて集中した。魔力が体に満ちるような感覚がする。
「ふん、何をしようってんだ、『劣化姫』」
ラティーナが魔法を使う気配を見せたことに気が付いたトロールが、小馬鹿にしたような声を出した。
だが、今のラティーナの耳にはそんな嘲笑は入ってこない。意識を集中させる。魔力が全身に満ちるその瞬間を、ラティーナは正確に捉えた。
「轟け!」
ラティーナは天に向かって吠えた。
それに呼応するかのように、ゴロゴロと低く唸る音が聞こえてくる。トロールははっとなったようだ。
「全軍撤退! 早く戻れ! じゃないと……」
空から青い筋のような雷が降り注ぐ。それが見えた時には手遅れだった。轟音や稲光と一緒に落ちてきた雷が、地上を襲う。
先ほどの雨で、両陣営の間に横たわる窪地は巨大な水溜まりのようになっていた。
雷が落ちたのは、その水の中だった。
「ああっ!」
「がはっ……」
そこを進攻していたタロス王国軍が、その被害を受けないわけはない。ラティーナが見ている前で、感電した兵たちが続々とその場に倒れていった。
それだけではなかった。高いところに落ちやすい雷は、辺りに林立していた木々にも直撃した。
「ぎゃああっ!」
そこかしこの森から、おぞましい悲鳴が聞こえる。トロールが森に兵を隠していたのだろうとラティーナは思った。
「ああ……」
トロールががっくりと膝をつく。
戦いはすでに終わっていた。辺りにはおびただしい数の屍が転がっている。当然、全てタロス王国軍のものだった。




