VS『??』(2/5)
「お前たち、ドミニク大渓谷での戦いの時はどこにいた? 本隊とは別のルートで進軍してたのか?」
「ふん、本隊のことなんて興味もねえ」
トロールは、中々エレズが挑発に乗らないものだから、少しイライラしているようだった。
「俺の敵はお前だ。リーヴ王国が滅んだ後、本隊とはずっと別行動を取っていた。それで、お前をぶちのめす機会を狙ってたんだよ」
「何だって……?」
にわかには信じられない発言だった。不意に、エレズの頭にある可能性が浮かぶ。
「まさか大渓谷の戦いで……本隊の方を陽動に使ったのか!?」
エレズは生唾を飲み込んだ。
「……ラエゴブ王国の守りを手薄にさせて、外部との連絡を取る時間的余裕も与えずに、俺をおびき寄せた。全ては確実に勝てる機会を作るため……」
見たところ、このトロールが率いている部隊員の数はそこまで多くない。いくらできたての小国とは言え、一国に攻め入るには今のままだと何かと問題があると判断したのだろう。
だからすぐに攻め込まないで、こんなまどろっこしいやり方を取ったのだ。
「お前、やっぱり鋭いな」
トロールは感心したように言う。
「だから俺は反対だったんだ。頭の切れるお前を追い出せば、リーヴ王国は長くは持たないってことが分かってたから。それなのに、あの馬鹿な魔物族の四天王が勝手なことをしやがって……」
「あっ……」
エレズは突如、あのラエゴブ王国に残されていた地図の走り書きの筆跡をどこで見たのか思い出した。
あれは、エレズがまだリーヴ王国にいた頃のことだ。
エレズは業務が忙しい時は、口頭ではなく、手紙で他の四天王に指示や頼み事をすることがあった。
ほとんどの場合、こちらから何かを言っても無視されることが多いのだが、たまに返事が返ってくることもある。
その返信に書かれていた文字と、地図の走り書きは、字の癖がよく似ていたのだ。
(それにさっき、こいつは俺のことを『農民』って呼んだ)
それはリーヴ王国にいた者しか知らないあだ名のはずなのに。
間違いない。このトロールは姿形こそ違うが、その正体はエレズのよく知る人物だ。
「お前……まさか……」
「おっと、お喋りはそのくらいだぜ」
エレズの顔色が変わったのが分かったのか、トロールが牽制するような大声を出す。エレズは、今この瞬間にその正体を暴露するのは、彼にとって都合が悪いのだと直感した。
「元リーヴ王国魔王四天王のジンだな!」
だから、大声で本当のことを言ってやった。
「どうやってタロス王国軍の将と入れ替わった!? お前は本当は狼男だろう!」




