危機は去らず(1/1)
「エレズ……まだ帰らないのかしら……」
エレズがタロス王国軍との決戦に赴いてから、もう何日経つのか。本日の訓練を終えたラティーナは、魔王城へ帰りながらため息を吐いた。
(まさか……作戦が失敗したなんてこと、ないわよね……)
ドミニク大渓谷でタロス王国軍に大打撃を与える――それがエレズが考えた作戦だった。具体的にどんなことをするのかラティーナも聞かせてもらったが、特に問題はなかったように思える。
それでも、何か予想外のことが起こって、その対応に追われているのかもしれない。まさか怪我なんてしていないだろうかと、ラティーナは心配になってくる。
(でも……今帰って来られても困るわ。私まだ、天候の制御が下手なままだから……)
帰ってきたエレズに魔法が上達した姿を見せると啖呵を切ってしまっただけに、このままでは顔が合わせにくい。
エレズが中々帰って来ないのはチャンスなのかもしれない。今の内にもっと訓練を積んでおくべきだ。
(……なんて、冗談でも思えないわ)
ラティーナの本心はと言えば、早くエレズの無事な姿が見たかった。その安否すらも分からないのは、不安でしょうがない。
(私……いつからエレズのこと、こんなに好きになっちゃったんだろう……)
『劣化姫』の自分にも分け隔てなく接してくれたとき。国を作りたいという自分の提案を受け入れてくれたとき。コンテストで負けても『優勝だ』と言ってくれたとき――。
思い返せば、きっかけなんてたくさんあった。きっとその全てが積み重なって、ラティーナの中でどんどん恋心が膨れ上がっていったのだろう。
(……って、何考えてるのかしら。恥ずかしい……)
どこかむず痒いような気持ちになって、ラティーナは赤面した。
(今はこんな感傷的な気分になってる場合じゃないわ……。私は早く、天候を操る術をマスターしないといけないんだから……)
「ラティーナ様!」
ラティーナが頭を振って一旦エレズのことを忘れようとしていると、ゴブリンに声をかけられた。
「何?」
「こ、国境より知らせが……!」
ゴブリンはひどく慌てていた。ラティーナは皆まで聞かずとも、何か大変なことが起こったのだと察した。
その時、遠くで爆発音のようなものが鳴り響いた。
「門が破られた……」
ゴブリンの顔に絶望がにじむ。
「ラティーナ様、お逃げください! 奴らが来ます!」
「奴ら?」
ゴブリンに背中を押されながら、ラティーナは困惑した。
「奴らって誰よ?」
「タロス王国軍です!」
ゴブリンが叫ぶ。
「タロス王国軍が、ラエゴブ王国に攻めてきたんです!」




