本当に惜しい(1/2)
「殲滅完了ね」
辺りに転がる、まだ煙を上げるサハギンたちの死体をルーシーは見つめていた。
空に逃げたタロス王国軍も、全てゴブリンたちとエーテル王国の自警団員の混合部隊に狩られた。これで本当の本当に全滅だ。
「宰相様ぁ! 私たち、頑張りましたよ!」
「いっぱい褒めてくださいね!」
火の精霊たちが嬉しそうに辺りで飛び跳ねている。ルーシーは「皆、ご苦労様」と労った。
(確かにタロス王国軍は強い軍隊だったかもしれない……。けど、私やエレズを敵に回して、勝てるわけなかったのよ)
エレズはルーシーよりも三歳ほど年下だったが、彼が自分と同じくらい機転が利いて頭の回る人物だということを、今はなき故郷の村にいた頃からルーシーは知っていた。
仲良しの悪ガキだった二人は、どうすれば自分たちの悪戯に村人が引っかかってくれるのか、暇さえあれば悪巧みをしていたものだ。
タロス王国軍をいかにして罠に嵌めるかという軍議の間、ルーシーは二人で額を突き合せていた幼少の頃を時折思い出していた。
猪突猛進しがちな魔物族を陥れるのは、村人だった人間族や混血児を騙すよりもずっと簡単だった。
ルーシー一人でも何とかなるにはなったのだろうが、そこにエレズの力も加われば、どんな作戦だって必ず成功するに決まっていた。
死屍累々の戦地を後にして、ルーシーはエレズとの待ち合わせ場所であるドミニク大渓谷近くの砦へと赴いた。
談話室で茶を飲みながらしばらく待っていると、廊下に足音がする。
「勝ったよ、ルー」
入室してきたエレズは、開口一番にそう言った。
「タロス王国軍は全滅だ。湖にやっていたゴブリンたちも、もうすぐ引き揚げてくると思う」
「そう、よかったわ……」
現場で指揮を執っていたエレズに礼を言うために言葉を続けようとしていたルーシーは、口を開けたまま固まった。エレズの後ろから、何食わぬ顔でキュアノスがやって来たのだ。
「キュアノス様! どこへ行っていたんですかっ! せっかくキュアノス様に、大事な役目を引き受けてもらおうと思っていたのに!」
「何でも大臣の補佐をしていたのだ」
キュアノスはルーシーの小言をのんびりと受け流した。ルーシーが横目でエレズの様子をうかがうと、苦笑いしている。
「それに、何か役目があるのなら、事前に言ってほしかったんだが」
「……言っても、どこかへ行ってしまうでしょう、あなた」
「あっ、土産があるんだ。忘れていた」
キュアノスは背中に背負っていた何かをこちらに投げてきた。ルーシーは反射的にそれを空中で受け取ったが、その正体が分かった途端に大きな悲鳴を上げ、それをエレズの方に放り投げた。
「何ですか! あの気持ち悪いのは!」
「タロス王国の魔王の脚だ」
「いりません! 捨ててきてください!」
まだ心臓がバクバクしている。タロス王国の魔王は巨大な蜘蛛の魔物族だと聞いていた。ルーシーは昔から、蜘蛛が大嫌いなのだ。
そんなこととは知らないキュアノスは、困ったようにエレズの方を見た。
「……だから言ったじゃないか」
エレズは蜘蛛の脚を片手に、やれやれと言いたそうにしていた。分かっていたのなら止めてくれ、とルーシーはエレズを恨みたくなる。
「じゃあ、何でも大臣に戦勝記念の品として進呈しよう。女王陛下にでもあげてくれ」
「……あのな、キュアノス。こんなのもらって喜ぶ女の人なんて……いや、男でもいないよ」
エレズは開いていた窓から、蜘蛛の脚を投げ捨てた。忌々しいものが視界から消えて、ルーシーは胸をなで下ろす。




