短い夢だったわね(3/4)
「な、何だって!?」
ルーシーの放った言葉は部下たちにとっては予想外であり、部隊員たちは一様にざわめきはじめた。
ギースはそれを見て舌打ちする。
「おい、落ち着け。敵の口車に乗るな。あいつの思うつぼだぞ。この女は俺たちを動揺させようとしているだけだ」
「で、ですが……」
部下たちは、余裕たっぷりに構えるルーシーとギースを見比べてオロオロしている。ギースはルーシーから目を離さないように注意しながら、部下たちを諭した。
「いいか、よく考えてみろ。確かにここには逆茂木は設置されていなかった。だが、この谷がどれだけ広いと思ってるんだ? その広い谷の岸にずらっと逆茂木を並べ始めたら、終わるのに何年かかるか分からないぜ。俺たちが来る場所の予測でもついていれば、その辺りにだけ逆茂木を植えておくこともできるだろうが、俺たちがこの地点に流れ着いたのは偶然なんだからよ」
「た、確かに言われてみれば……」
ギースの言葉に、部下たちは納得しかけた。だが恐ろしいことにルーシーは、そんな発言が出てくるのは予測していたとばかりに、「いいことに気が付いてくれたわね」と笑っている。
「実はその辺りも作戦の一部だったのよ。……ねえ、あなたたち忘れてない? エーテル王国は精霊の国だってこと」
ルーシーは依然として狡猾そうな笑みを浮かべている。
「精霊はね……強制的に雨を降らせたりとか、火山を噴火させたりとか、自然現象を意図的に起こすのは苦手よ。でもね……自然を従えること自体は得意なの」
例えばね、と言いながらルーシーは例を出した。
「風の精霊なら、こっちに向かってくる嵐を別の方角へそらすことができるし、火の精霊なら、小さな火種から、三日三晩消えない炎を作ることもできる。水の精霊なら……もう分かるかしら? ちょっと水流を操って、流れてきたものを任意の地点まで運ぶくらいは楽勝なのよ」
「おい、まさか……」
「でも、今回は水の量が多かったし、結構な大仕事だったみたいね。こんな時こそキュアノス様の出番だと思ってたんだけど、肝心な時にいなくなっちゃうし……。まあ、作戦は成功したからいいんだけど」
ルーシーは、片手をゆっくりと頭上に掲げた。
ギースはもはや言葉も出ない。だが、部下たちの動揺はそれ以上だった。この女は自分たちよりも何枚も上手だと悟って、逃げ出したいと誰もが思っているようである。
そのことに気が付いたギースは、我に返って、己を奮い立たせようとわざと高圧的な口調でルーシーに問いかけた。
「それで、この後はどうするんだ、宰相さん?」
ギースは恐れを吹き飛ばすように高笑いした。
「随時ご立派な作戦を立てて、それが成功したことはめでたいが……。だがその後は、まさかたった一人で俺たちに立ち向かう、なんて言うんじゃないだろうな? 無謀だぜ、それは」
ギースは部下たちに怒声を飛ばす。
「お前たち、敵はたった一人だ! 罠にかかったことはもう忘れろ! エーテル王国侵攻の最初の敵として、まずはこの女を血祭りに上げてやれ!」
ギースはルーシーに向き直った。
「俺はお前を倒して、エーテル王国をギャフンと言わせた後、タロス王国の魔王になってやるんだ! 全軍突撃!」
「あら、いい目標だわ」
ルーシーは焦りもせずに、挙げていた手を静かに下ろした。
「でも、短い夢だったわね」
頭上の梢で、何かが動く気配がした。




