短い夢だったわね(2/4)
「あら、それには及ばないわ」
ふと声がして、ギースは振り向く。少し遠くの木立の影から、一人の女性が出てくるところだった。
(人型……それに、目が青と赤……。混血児か)
ギースは彼女の身体的特徴から、女性が魔物族ではないとすぐに分かった。
「このまま帰るのなら特別に見逃してあげようと思ってたんだけど、やっぱりだめね。本当、あなたたちって野蛮だわ」
「あんた、何を言ってるんだ?」
ギースも部下たちも訝しむ。
「その前に一体誰だ? どうしてこんなところに混血児がいる?」
「どうして、ってまだ分からないの?」
女性は鼻につく嫌な笑みを浮かべた。
「あなたたちを待ってたのよ」
「俺たちを?」
「それから、ご紹介が遅れたわね」
女性は、敬意がまるで籠もっていないお辞儀をした。
「私はエーテル王国宰相のルーシーよ。以後よろしく……って言いたいところだけど、『以後』なんて言うのはないわね、少なくともあなたたちには」
「エーテル王国の宰相だって!?」
ルーシーの意味深な発言も気にはなったが、ギースたちはそれよりも、今目の前に現れたこの女性が、予想以上の大物だったという事実に沸いていた。
「おい、こいつを倒したら大手柄じゃないか!」
「首をはねてエーテル王国の魔王城へ送りつけるんだ! きっとエーテル王国は戦意喪失するぜ!」
「いや、それよりも生け捕りの方がよくないか? 人質にすれば、きっと役に立つぞ!」
勝手なことを言いながら、ギースたちはじわじわとルーシーとの距離を詰める。しかし、ルーシーは慌てた様子もない。
「まったく、騒がしい方々ね」
それどころか、こちらを煽るような台詞まで口にする。
「それに、あなたたちは勘違いをしているようだわ。あなたたちは、これは私を捕らえるチャンスだと思っているみたいだけど、実際はその逆よ。捕まったのは、あなたたちの方だわ」
「何だと?」
「分からないかしら? つまり、あなたたちをここに誘導したのは、私ってことよ」
ルーシーが噛んで含めるように説明した。
一方のギースの部隊員たちは、思ってもみなかった言葉に、「誘導だって?」と訝しむ。
「あら、これはもう少し説明が必要かしらね」
ルーシーはわざとらしく驚いた顔をしていた。
「この辺り、逆茂木が植わっていたでしょう? だからあなたたち、中々上陸できなかったんじゃないかしら?」
「ああ、その通りだよ」
こんなに大勢の敵と対峙してもまったく怯む様子もないルーシーを見て、この女はただ者ではないと薄々感じ始めたギースが、用心深く答えた。
「タロス王国軍が侵攻してくるのに気が付いて設置したんだろう? だが、宰相さん、あんんた、ちょっと抜けてたみたいだな。お前たちが逆茂木を設置し忘れた箇所から、俺たちがこうして入って来られたんだからよ」
「それね、わざとよ」
ルーシーの目が一瞬、罠にかかった獲物を見つめる肉食獣のように光る。
「あなたたちをおびき寄せるために、わざとここだけ逆茂木を植えなかったの」
「おびき寄せる……? 一体何のために……?」
「何のため、ってもちろん、まとめてタロス王国軍を倒すために決まってるでしょう? 今回の作戦の目標は『一網打尽』だもの」




