VS『タロス王国軍』!(2/2)
「……うん?」
どこからか、地鳴りのような音がする。
「敵襲か?」
タロス王国の魔王が副官に問いかけた。「かもしれませんな」と副官が返す。
「恐らく、エーテル王国が我らの存在に気が付いたのでしょう。ですが、念のために誰かを物見にやりますか」
副官の命を受け、近くにいた兵士が派遣される。
だが、その兵士が戻ってくることはなかった。それでもタロス王国軍は、すぐにその奇妙な音の正体を、身をもって知ることとなった。
「あれは……水か!?」
「なんと言うことだ! 一体何が起こって……?」
「逃げろ! 飲み込まれるぞ!」
迫り来る水の壁に気が付いたタロス王国軍は、あっという間に隊列を乱し、四方八方に逃げ回った。
「な、なんて速さだ!」
「馬鹿!そちらへ行くな!」
「駄目だ! 追いつかれ……ぐえっ」
空を飛べない者は、自分たちの背丈より高い水に瞬く間に引きずり込まれていく。水の勢いはすさまじく、とてもではないが振り切れるような速度ではない。
「怯むな!」
狼狽える臣下たちを見ながら、魔王が怒鳴る。
「たかが水ごときが何だというのだ! それでも貴様たちは天下のタロス王国軍か!」
「し、しかし魔王様……!」
「黙れ! 逃げ出す者はこのワシが……」
頭上から覆い被さるように降り注いだ濁流によって、魔王の姿が見えなくなった。その光景を目の当たりにしたタロス王国軍の間に、さらなる動揺が走る。
「魔王様がやられたぞ!」
「うわああ! 助けてくれー!」
好戦的なタロス王国軍とは言え、自分たちが手も足も出ない相手に対して恐怖心を抱かないわけはない。この中で誰よりも強いはずの魔王が、一瞬にして激流の餌食になったとあらばなおさらだ。
「これはただの水じゃねえ! 俺たちを食い殺す化け物だ!」
絶叫がこだまする。そんな悲鳴すらもやがて聞こえなくなり、辺りには水の流れる音だけが響き渡るようになった。
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「大勝だな」
グリフォンを操り、ドミニク大渓谷へと降り立ったエレズが呟く。
湖に溜めていた水が全て流れ出て、谷にはこの時期のいつも通りの光景が戻ってきていた。
ただ一つ異なる点と言えば、濁流に呑み込まれたタロス王国軍の死体が、あちこちに転がっていることだ。
「何でも大臣! これはタロス王国の魔王ではないか?」
グリフォンから降りたキュアノスが岩陰に何かを発見したようだった。エレズが目をやると、足のいくつかが千切れた大きな蜘蛛が、腹を向ける形で横たわっている。
「……見れば分かるが、死んでいるな」
近くにあった木の枝で大蜘蛛を突きながら、キュアノスが言った。タロス王国の魔王は、体を嬲られてもピクリとも動かない。
「本当に一網打尽だ。魔王がいなくなったんだから、タロス王国ももう終わりだな」
キュアノスが感慨深そうに言う。
上空に逃げたタロス王国軍の残党も、近くの山間にルーシーが待機させたエーテル王国の自警団員や、エレズが貸し出したゴブリンたちによって殲滅されただろう。
この戦いでタロス王国軍は全滅したのだ。
「作戦は成功だ。帰ろう、キュアノス」
「魔王の足を何本か土産に持って帰るか?」
「……そんなのもらっても、ルーは喜ばないよ」
苦笑しつつ、エレズはグリフォンを駆って空へと舞い上がった。
(終わったんだ……)
風が心地良い。胸の中で燻っていたものが解けていくような感覚だった。
タロス王国は自分の故郷を奪った憎い相手。やっとその報いを受けさせることができたと思った。
作戦の準備に追われていた頃は慌ただしく動いていたためそんなことは考えもしなかったが、これはエレズにとっては復讐の一環だったのかもしれない。
(これでやっと国に帰れる……)
エレズの生まれ育った場所はもうないけれど、戻る場所はある。そのことが、何故だかどうしようもなく嬉しかった。
(まずは湖に待機させておいたゴブリンたちを呼び戻そう。それで、ラエゴブ王国に帰ったら、またラティーナ様たちと一緒に国を盛り立てないと……)
お帰りなさい、と言いながら出迎えてくれる可愛らしい笑顔。早くその顔が見たいと思いながらエレズはグリフォンの背中でひっそりと胸を高鳴らせた。




