それぞれが立ち向かうもの(1/2)
軍議が終わってからというもの、エレズは慌ただしく動いていた。ゴブリンたちを色々な地点に派遣したり、ルーシーと何度も作戦会議をしたりと大忙しだ。
そんなある日のことだった。哨戒にやっていたゴブリンから、タロス王国軍についに動きがあったという報告が入ったのは。
「留守は任せましたよ」
いよいよ戦端が開かれる。それに当たって、エレズもエーテル王国に赴くことになっていた。
「頑張ってこいよ」
エレズが出発する日、離発着場まで見送りに来てくれたのはリーヴだった。
その他に何体かのゴブリンもいるが、数は少ない。最近のラエゴブ王国全体からは、ゴブリンの姿が消えていた。
というのも、戦争の準備のため、ラエゴブ王国のゴブリンは国の運営に必要な最低限の数を残して皆国外に出ているからだ。
エレズ自身も作戦会議のために何度もエーテル王国に赴き、長い間ラエゴブ王国に帰らないことも多くなっていたので、近頃ラエゴブ王国の開拓作業は滞りがちだった。
それでも、普段から留守を任せているリーヴのお陰で、エレズは安心して国を空けることができていた。
かつては一国の元首だっただけあって、国の運営についてリーヴはある程度の知見がある。魔物族特有のいい加減なところさえなければ、十分にエレズの片腕たる人物と言ってもよかった。
ゴブリンにも彼の言うことは聞くようにと言ってあるし、エレズがいなければどうしようもない問題は今のところは起きていなかった。
「エレズ様! お気をつけて!」
「お帰りをお待ちしています!」
ゴブリンが手を振る。エレズはそれに応えながら、少し辺りの様子をうかがった後、グリフォンに跨がった。
グリフォンは、エーテル王国の北部にしか生息していない希少な生き物である。猛禽類の頭と翼を持っており、胴体は獅子の形をしている。
エーテル王国では移動手段としてこの動物を飼育しており、二国間を行き来するエレズのため、ルーシーが一頭貸してくれたのである。
「ごめんなさい! まだエレズはいるかしら!?」
リーヴが城へと帰って行き、グリフォンが助走をつけようとする寸前、息せき切った声と共に飛び込んできたのはラティーナだ。
エレズは慌ててグリフォンの動きを止めた。
「ラティーナ様……来てくれないのかと思いましたよ」
エレズは苦笑しつつもほっとしていた。次はいつ帰れるのか分からなかったので、国を出る前に挨拶くらいはしておきたかったのだ。
「ごめんなさいね」
息を整えながらラティーナが謝る。エレズは、「また魔法の練習をしてたんですか?」と尋ねた。
「まだ、あのことを気にしてるんですか? そんなの、悩むようなことじゃないって言ってるのに……」
「エレズが気にしなくても、私が気にするの!」
ラティーナが頬を膨らませた。
「私、エレズが帰ってくる頃には、弱点を完璧に克服してみせるわ! ……じゃあ、行ってらっしゃい!」
威勢の良い声と共に、ラティーナがグリフォンの翼をペチンと叩いた。それに促されるように、グリフォンが走り出し、空へと飛び上がる。
「全くもう……ラティーナ様は……」
ラエゴブ王国が小さくなっていく。エレズはやれやれとため息を吐きながら、グリフォンに跨がり直した。
(……って俺も、他人の心配をしてる場合じゃないよな)
なにせ今から戦うのは、あの悪名高いタロス王国軍なのだ。負ければ待っているのは死と破壊だ。敗北は絶対に許されない。
故郷を襲った惨劇を繰り返すまいと、今は他のことは一旦頭の片隅に追いやって、目の前の大きな問題に集中するべく、エレズは気合いを入れ直したのだった。




