古巣、狙われる(1/1)
リーヴ王国からずっと東に行った地にある大国、タロス王国。その王都にある魔王城では、今日も宴会が行われていた。
「いやあ、先日も大勝でしたな」
「本当に。弱すぎて腕の振るいようもない」
美食の載った大皿を前に杯を傾けるのは、荒々しい顔の魔物族たちだ。今日開かれているのは、先日とある国と交戦し、それに勝利した記念の祝勝会である。
と言っても、年がら年中戦争を仕掛け、それに勝利している彼らにとっては、戦っていない時はほとんど戦勝記念の宴を開いているような状態ではあったのだが。
「おいお前たち、魔王様が次の標的を決めるお時間だぞ」
将軍のトロールが周囲に話しかけている。彼の視線の先にいたのは、巨大な蜘蛛の姿をした魔物族だ。これがこのタロス王国の魔王である。
魔王は一本の矢を持つと目隠しをした。そして、壁に貼られた魔界の地図の方を向く。この時ばかりは集った者たちも騒ぐのをやめて、静かに事の成り行きを見守っていた。
魔王が振りかぶる。矢が空を切り、地図に刺さった。その矢尻が示す場所を、傍らに控えていた魔王の副官が高らかに宣言する。
「リーヴ王国! 次の標的はリーヴ王国です!」
わあっと歓声が上がる。頬を上気させ、皆は新たな獲物について語り合った。
「確かちょっと前までは結構でかい国だったな」
「今は魔王が封印されてるって聞くぞ」
「ふん、今回も一揉みだ」
彼らにとって戦争は、自分の力を誇示する場であると共に娯楽でもあった。戦って楽しめればいいのだ。ゆえに、その『楽しませてくれる相手』にこだわりなどはなく、こんな風に適当に決めても誰も文句は言わなかった。
だが、今日は少しばかり事情が違った。ひどく酔った一人の将軍が、「俺もやるぜー!」と言いながら、肉料理についていた骨を片手に地図の前に立ったのである。
「おいおい、ギースだぜ」
「まったく、調子の良い奴だ」
魚の体に手と足が生えた魔物族――サハギンのギースは、将たちの間では、奔放な行動を取りがちなことで有名だった。
「そーれ!」
周囲から白い目を向けられているのにも気が付かず、ギースは手にした骨を投げる。
それが、地図のある一点に突き刺さった。副官が反射的に声を上げる。
「エーテル王国、エーテル王国です!」
先ほどとは比べものにならないくらいの興奮が辺りに伝播した。言ってしまった後で、副官は我に返ったように、主君の顔色を伺うような仕草で魔王の方を見た。
「相手にとって不足なし」
魔王は一言しか漏らさなかった。だがそれは、タロス王国の攻撃対象として、新たな相手が加わったことを皆に知らせるには十分だった。
「エーテル王国……あのエーテル王国か!?」
「面白い。一度あそことやってみたかったんだ」
「リーヴ王国で肩慣らししてから、エーテル王国か。燃えてくるじゃねえか」
先ほどまでギースを白眼視していた者たちが、手のひらを返して彼を讃えるために、酒を持ちながらいそいそと近づいていく。
殺気立った兵たちの宴は続く。
彼らの頭の中には過去の勝利などすでになく、未来の楽しみのことだけが詰まっていた。




