対タロス王国同盟(1/3)
エレズがラティーナやリーヴを伴って再びエーテル王国を訪れたのは、ルーシーに危機を知らせる手紙を送ってから一週間も経たない日のことだった。
国境にほど近い町で会談が行われ、二国は対タロス王国を目的とした軍事同盟を結ぶことが決定する。
「エーテル王国の危機でしょう? どうして私たちが同盟を結んでまで手を貸すの?」
会談が終わるやいなや、エレズたちはルーシーに、司令室として使うことになった部屋に呼ばれた。
その道中、ラティーナが不思議そうに尋ねてくる。
ラティーナはエーテル王国に友好的な感情を抱いている。だが今回の件に関しては、エレズが自分から面倒ごとに首を突っ込んでいるように見えるようだった。
ラティーナの疑問にエレズが答える。
「ラティーナ様、エーテル王国とラエゴブ王国は、そんなに距離が離れていないでしょう? 戦火がこっちにまで飛び火したら、ラエゴブ王国の兵力ではどうにもならないんですよ」
「……どういうこと?」
「要するに、やられる前にやる、ということだな」
エレズの言葉の意味を図りかねたラティーナが首をひねっていると、リーヴが分かりやすく説明してくれた。
「ラエゴブ王国に被害が出る前に、敵を倒す。それには、エーテル王国と協力するのが一番だ、と言うわけだ」
「そのとおりです。それに、今回こうやって助けておけば、また何かのときに役立つかもしれませんから」
「何かのときって……また戦争するの?」
ラティーナが目を丸くしている。エレズは、「それは分かりませんけど」と肩を竦めた。
「まあ、困った時はお互い様と言うしな」
リーヴが言った。
「『エーテル王国が困った時はラエゴブ王国が助けに行くから、その逆もよろしく頼む』と、何でも大臣は言いたいんだろう」
「はい。協力し合えば、不測の事態にも対応しやすいですから」
エレズは「それに……」と続けた。
「今エーテル王国に倒れられたら困るんですよ。ラエゴブ王国の重要な交易相手ですからね。エーテル王国が滅んだらラエゴブ王国も滅ぶ……って言ったらちょっと大げさですけど、深刻なダメージを受けることは確実です」
「確かに、色々と輸出してくれる国がなくなったら困るわね」
ラティーナも納得がいったように頷く。
「本当は物資の輸入先をどこか一国だけに頼るような状態は良くないんですけど、ラエゴブ王国はまだできたばかりで、エーテル王国以外とは国交も結べていませんからね」
「国同士のお付き合いって大変なのね」
ラティーナが神妙な顔をしていると、司令室のドアが開いて、ルーシーが出てきた。一行は中に通される。
「来たな」
大きな机にはすでに資料らしきものが積んである。壁には魔界の地図が貼ってあり、その前に立っていたキュアノスが、エレズの顔を見るなり口角を上げた。
「では、軍議を開始します」
全員が着席すると、前置きもなしにルーシーが重々しく切り出した。
「現在のタロス王国軍の位置だけど、すでに本国へ帰還したものと見られます。侵攻の予定日などは不明。……本当はタロス王国に斥候を放って調べさせたいんだけど、そういう任務を真面目に遂行できそうな人員が確保できなかったわ」
ルーシーはやれやれと言いたげだった。
エレズは自分のゴブリンを貸そうかと言いかけたが、緑の肌のゴブリンなんて目立ってしょうがないのでスパイには向かないだろうと思い直し、代わりの提案をする。
「俺のゴブリンに哨戒をさせよう。あいつら、そういう任務は慣れてるから、上手くやってくれると思う」
「ええ、ありがとう」
ルーシーは少しだけ表情を和らげた。だが、すぐに眉を曇らせる。
「でも、問題は他にもあるのよ。……エーテル王国には軍隊がないの」
(……あの噂、本当だったんだ)
エーテル王国は争いを好まない王国であり、魔界では珍しく軍を置いていない国家である、という噂をエレズも聞いたことがあった。
「宰相殿、よくそんなので『戦争をしよう』なんて言い出せたな」
キュアノスが自国のことなのに他人事のように言った。
「一応、自警団くらいならありますから……」
ルーシーは気まずそうだ。
「でも……それじゃ足りないのよね。国中から自警団員をかき集めても、タロス王国軍と渡り合えるだけの数が揃わないの。戦いは攻めるよりも守る方が有利って言うけれど、それにも限度があるし……」
「じゃあ、ここでもエレズのゴブリンたちの出番ね!」
ラティーナが意気込んで目配せしてきた。しかし、エレズは素直に頷き返せない。
「何かあるの?」
エレズが色よい返事を返せないでいると、ラティーナが目をパチパチしながら尋ねてきた。




